コンテナガレージ

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3  ~小説は大人の読み物です~

 

「物と音の両面を、私のファンは音楽ディスクに見出した。所有による効用を得るのです。ディスクに刻まれたデータ、これを読み取る機器を通じ、聴覚が感じ取る音と振動を彼らは欲する。しかも、ファンは媒体の先へ関心を示す。そう、私は単る仲立ち、仲介役に過ぎないのです。通常……、ええ、あなたの呟きに答えると、最終到達点ではありません。他の方、歌手と呼ばれる人物はファンたちの終点です。寸断された線路の先、同じ道を引き返すか、その場にとどまるかの二択を迫られてしまう。ほとんどの人は、日常生活が待っていますので、帰宅の途に着く。少数の断固として居座ってしまう人は、憧れの人物の世界に浸りきる、水浸し、濡れていることが当たり前に摺りかわる、つまり停滞です。けれど、またもや性懲りもなく列車で終点に足を運ぶ人にも同様、いいえ、瓜二つの恐れをその身に湛える。終点があると大変にありがたい、手を振って対価を支払うだけで、電車に乗せてもらい、すばらしく礼儀正しい彼らにはいつも笑顔で振舞う乗務員や山の稜線、色鮮やかな木々、花々の四季折々の趣向を凝らした演出を味わえてしまえる。ええ、何も考えていないのです。車両に、口車に乗せられている、とも知らずに考える頭が欠落しているから。だから、搾取は許されるのか?いいえ、誤りでしょうね、理解や同意を得た上で仲介役に対価を支払うべきですから。はい、また道を逸れました、鈍重な進行はあなた方もその一端を担う、ということを心して、再確認を願います、ときに私一人が責任を抱える場合に見舞われますので。冒頭で設けた規則が守られないのです、どうか割り切っていただく、これが賢明かと。当事者意識に欠ける、約束を軽んじる方は大勢が集まる場では自らの価値を引き下げてしまうのです、皆さんがそうだと、私ははっきりと告げている。思い当たる方は頭にきた方はどうか速やかに退席を、認め難くも仕事人を全うする覚悟を持つなら、口をつぐみ耳を傾ける態度を取り続けてください、反旗は苦痛を長引かせるのですから。それでは、空港、飛行機の搭乗に話を移しましょう。はい、ツアーは大変な盛況ぶりでした、私が予想する反応とは倍以上の差がありました。それほど、人は情報の波に生きているのだ、ということが知れた。私の事情はこれぐらいに、トラブルの一報を受けた翌日の午後には完売の知らせが事務所に入りました。もちろん、ライブ観戦予定者で今回のツアー企画の参加を泣く泣く辞退される方々については、都内の手狭なライブ会場でお客さんの都合がつく予定日ごとに演奏を届けることに決めました。そう、後手後手に回る、顔が見えないとでも思われてる後列の方に答えますと、言われなくとも私は対策は講じました。年間契約を結ぶライブハウスは建物そのもの、従業員にいたる運営母体まるごとを私が買い取りました。これで演奏場所の確保に慌てふためかずに、予定通り進む。嫌がらせならば、あとは交通機関のストップであるとか、どなたかがいずれ責任を追及される強攻策を取らざるを得ませんし、観戦予定者に対しては事前に家族以外へ流布を避けるようとも伝えました。こうした余波を裁き、当初予定されたライブは機内演奏へとようやく舞台の場を変える。はい、あと十五分ですか、分かりました、どなたか五分おきに廊下におられる方は空いたドアから手を振ってください、私が認めますので、はい、腕時計は身につけません。それでは、ようやく上空へと飛行機が飛び立ちました。ここで少しだけ機内演奏について触れましょうか」