コンテナガレージ

仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

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頭が上がるのを待った。上げてくれ、とは了解を意味しかねない。薬師丸の疲労の蓄積を待った。タバコを吸えたらと、彼女は暇を埋めるアイテムを欲した。遠方で高い音が鳴る。金属音。
「映像は事務所、いいえスタジオ宛に送ってください。打ち合わせを行った建物です。私の名前で荷物は届くはずです」引きあがった顔に注釈をつけた。「マネージャーを通じた連絡は多少のタイムラグが生じる。ですので、気持ち早めに意思疎通を伝えてください。映像については私の意見がどの程度反映をされるのか、それについてもあなたの観測で構いません、理由をつけて映像に文書、あるいは音声にて添付をお願いします。メールでも結構です、可能な方法で」
 ゲートを目指しアイラは引き返す、背後の建物が側面に位置を変え、併走する。
 案の序だ、引止めを食らった。
「映像を丸ごと修正する可能性がある、そうおっしゃるのですか?」切迫、喉を絞めた音声だ。表情は固く、前のめり、前腿に体重が乗る、重心移動に一拍のタイムラグが彼を襲う。彼女は背後の薬師丸を想った。
「いいえ。私は映像作家ではありません。細かな注文をつけたいとも思わない。分業に口出しは禁物、人によってはやる気を失いますからね。……曲は個性を殺した作品が予測されます、あなた方が思う私に要求したイメージとはかけ離れた出来栄えに驚くでしょう。少なくともあなた方の要求を満たした完成ですから、ご心配には及びません。長時間の上映には不向き、とは言えるでしょう。何度も流すことを差し控えてくだされば、よりいっそう効果は上げられる。取得する意識を問わず広告は目に入れる頻度が高い。無論、あなた方も他の企業と並んで印象付けは得意でしょう。とはいえ、受け手自身が踏み出した好意の選択とはかけ離れてた、そのことには気づいているでしょうか?受け手は、いつも見るから、見てしまうから買うのです。そして次の良く見る見てしまう商品を好むのです。その点、マッチポンプの現状を脱け出す覚悟がウェイブに窺えました、だったらいっそのこと、たましにか見られない決まった時刻のCMが適当であるよう、私は思います。また、その映像も大自然や豪奢で精錬された建造物などに代表される車を際立たせる背景と縁を切って、そうですね、車の製造過程を見せては?一見して何を作っているのか首をかしげるエンジンブロックの鋳造などはおもしろい。スタイリッシュでスピーディー、ゴシックでシニカルなどは、もってのほか。車は作品ではありません、まして工芸品でも芸術品でもない、触れ合う見慣れてこそ真価が匂い立つ日用品。日常的な用途に使う大人数には別の車を勧めてください。販売店も限られた場所が好ましい、近くで買えないことへの謝罪は控える、特殊な車なので、という明確な意思を提示してくださると販売員の負担が軽減する。これは特定の層に向けた商品なのでしょう?」
 アイラは施設内をあとにした。立ち尽くす薬師丸をどうにか促し、最寄り駅で降ろしてもらった。見知らぬ駅、土地である。車を見送ることはしない、お礼も告げない、断ったのだ一度、駅までゲートを出て歩くと。無理やり乗せられた、私が強制したと誰もが思うのだろう。真実は当事者たちの中でくすぶる。
 空腹が襲うだろう、何か食べようか、しかし所持金が足りるかどうか、カードは使いたくはない。お金を持っているだろうに、声が聞こえたが、その返答はいつかかつて応えた。決めた金額以外は使わないし、それほど非常時であるだろうか、と反対に問いたくなる。こちらの問いかけには応えを拒むのだから、そういうことである。
 電車は思い違い、地下鉄だった、地上に顔を出す地下鉄は張りめぐった都内の地下の煩雑な交差がその理由か。アイラは思い浮かべる大まかな地図に現在地のピンを刺して、昼食とあっさり縁を切り古びた駅舎に入った。