コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

1

天井、機内の天井は丸みを帯びていた、種田は数時間前の記憶を取り出す。
「自殺志願者か」熊田が呟いた。車内に重々しい言葉が放たれる。彼の発言は鈴木、相田のストッパーの役割を担う。
「種田の意見は?」困ったときにこそ私が指名される、子供のときの教師を思い出す。鈴木の問いかけに応えはするが、本意ではないことを端的な言い回しと声の低さに表す。
「不明確かつ、わずかな情報を手がかかりに導く言動は軽はずみ。もっとも鈴木さんが望むのですから、答えはします。そうですね、被害者をいつ、その場所に移した、これが不可解な命題でしょうか。整備やその他、客室乗務員、パイロットたちの共犯を除外した可能性を言っています」
「わかりきってるね、それは」
「いつです?」
「搭乗前さぁ」鈴木は、はっきり告げる。
「お言葉を返すようですが、聴取の際に引き出した情報によれば、搭乗前の客室点検時に荷物棚は調べられていました、毛布に包まった死体の報告はありません。また、死体をくるむ毛布は機内の備品が使われた。つまり、少なくとも客室乗務員が機内のチェックを行う地上での確認よりも後に、毛布は持ち出され、さらに死体を作り出せた時間はチェック後からアイラ・クズミ女史の一回目の公演後まででしょう。ちなみにですが、その間のアイラ・クズミ女史が控え室にあてがわれていたフロアでは無関係な人物の往来は確認されてません」
 アイラ・クズミとは以前に事件で顔を合わせたシンガーソングライターを名乗る人物だ、種田は苦々しく顔をゆがませる。彼女にとっての苦い経験、同姓のしかも警察とは無関係の人物が事件を解決に導いた張本人。思い出すだけでも腸が煮え繰り返える。まったくもって、ずうずうしい、この上なく出たがり、表面では無関心を装うが、私は見透かしている、種田は舌打ちをした。
「ええっ、僕、なんか気に触るようなこと言ったかな……」
「いつも気に障ってるし、気が触れてる」
「いくらなんでも言いすぎですからね、相田さんはぁ」
 埋立地、陸地、あるいはその境目。
 四人を乗せたレンタカーは一本道をひた走る、等間隔に同一方向へ進む車両が見ようによっては種田たちが最後尾を固める警護車両に見えなくもない。
 死体の身元は判明するだろうか、種田はあまり気乗りしない過去に想像をめぐらす。明るみに出始めた情報を頼りにしてはいずれ捜査は行き詰まってしまう。そうはいっても、懸案事項を余所に、種田たちへ情報が降りる保障はありはしないのだ。こちらから真相に近づけば、警視庁も追加報告の欠片程度なら教えてはくれるかもしれない。
「死体が見つかるフロアに出入りを許されたのが、六人か」熊田は独り言を呟いて唸る。同乗者の三人は彼の発言を待った。景色は港湾を出て一般道を走る、視界を通り過ぎた看板が明示。「うち二人はキャビンアテンダント、他四名が歌手の一団……。機内で演奏をする発想はいわゆる今風なのか?」
「ええっと、常識的に考えて、いいと思いますよう」鈴木がこわごわ応える。熊田が発する気配を時に鈴木は敏感すぎるほど感じ取って距離を取りだがる。「ちなみにキャビンアテンダントは今風だと、CAですかね」
「鈴木、知らないからな俺は」小声、鈴木の耳元で相田がささやいた。しかし、忠告は丸聞こえ。びくつき、肩を揺らす鈴木に相田は付け加えた。「そういえば、これって喫煙車?今はさあ、うるさいんだろう、匂いがどうのこうのって」
「決まってるじゃないですか、僕はタバコを吸うんですよ」
「吸わないやつが一名いる」浮かせた腰を下ろして相田がこちらを蔑視した。特に、差別とは思ってはいない。種田は声の聞こえ方から相田の顔の向きを読み取る。