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追い詰める証拠がもたらす確証の低下と真犯人の浮上  1 ~小説は大人の読み物~

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「話題をさらわれる危険性が高い。そのような判断が議題に上がらず観測を逃した、ということ」
「そうでもありませんよ」たこ焼きを一度アイラを見て、カワニは一口で口に収める。案の定、苦悶の表情を浮かべる、涙もうっすら目じりに溜まった。「っふう、ああっ。……通常打った広告、僕らが新車を目にするときは、まだ車の販売は行われていません。特殊な車両であれば、受注生産だったり予約をして手元に届くまでは数ヶ月かかってしまう、生産数と生産ロットが決まってる製品もある。ところが、今回の新車発表は博打というか、無謀といいますか、発表会見の当日にアイラさんの曲に載せたCMが流れて、翌日には販売が開始されるそうなのですよ、それも一定数は購入を見越して生産済み。取り扱うディーラーに限って販売を受け付ける、とも言ってましたね。煩雑な手続きがアトラクションのような手間隙をかけた労力と手に入れる喜びを結び付けるんでしょう」
「話がそれだけなら、作業に戻ります」アイラは椅子を回転させる、机のPCに向き直る、幾何学模様がなうねうねと画面を這い回る。
「販売責任者がアメリカに行ったっきり戻ってこないんだそうです」カワニが熱量を込めて言う。どこかに引っ掛かりを覚えるだろう、人はどうしても相手にわかってもらいたい人種なのであって、私のように共有を拒む人種は希少性に富むのだと、彼女は刻む時間の時々でそれらに対する耐性と謎の解明を深く掘り下げていた。
「機内で見つかった死体と合致するかもしれませんね」
「やっぱりそう思います?」
 カワニは水を得た魚みたいに早口で状況を伝えた。
 薬師丸の他にもう一名、販売の担当者が渡航前に開く打ち合わせに顔を見せていたという。
 その人物はアイラを除いた一回目と、アイラを交えた二度目の打ち合わせの間にアメリカに渡った。
 じわりアイラの人気がアメリカの低・中間所得層の支持を集める流行の兆しをを頼りに、タイアップ曲にあやかるアメリカでのシェア拡大を狙い、その担当者は一人単独で現地法人へと向かった。アイラの曲をクライアントに売り込む際に、全世界配信のセッションが話題を集める現状は伝えるべきではなかった。渡米に駆り立てたきっかけにカワニは責任を感じているらしい、当該人物がまだ死体と一致した訳でもないのに。
「おかしい」
「現地に飛んでしまえた行動力は説明がつきます、彼はアメリカ育ちですから」自信満々、カワニはクライアントの情報は掬えるだけ掬う。相手の弱みを握った交渉は決して行わない、ウィークポイントを把握することによる性格の傾向分析を彼は楽しむのだ。私にすり減らした神経の息抜きという言い換えも可能ではある。
「そのことではありません」アイラは訂正した、大仰にそして静謐に言い放つ。「発売と販売の視点は他社が目を瞑ったリスクを負う奇策。活路を見出す着眼点は褒められるでしょうね。ですが、なぜです、該当車種を取り扱う販売店に限定したのか、まったく理解に苦しむ、いいえ自ら足を引っ張る材料をわざと見落としたとしか考えられない。そもそもが増やしすぎた車種はメーカー側の購買意欲を駆り立てる戦略ですよ。まったく、履き違えてる。出直し、という覚悟をもって望むべき。他者はこれから世界の市場を席巻する可能性を秘めるのです、背に腹は変えられないつもりのはずだ」 
 低音が木霊した。私の声が室内でリバーブがかかったらしい、天井がしゃべったみたいである。カワニの動きはそれに反し、せき止められた一時的な川の流れのように、腐敗した木の葉に行く手を阻む。
「そういわれると、そうですねえ……しかし、販売店の限定はアイラさんのアイディアということも耳にしましたけど……」
 彼に呼びかけに三拍遅れて応えた。
「車が手に届く遅延を元に私は述べたのです。即時に手に入る場合はどんどん受け口を広く作らねば。売りを見誤ってます