コンテナガレージ

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仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

追い詰める証拠がもたらす確証の低下と真犯人の浮上  1 ~小説は大人の読み物~

空気を切り裂かれた。端末を取りに戻るキクラがたこ焼きを二つ、幅広の口角内に大胆に放り込み、退出した。彼が「忘れ物」、と言葉を発したのだ。晴れ間、雲が切れる。室内の天井にやや功名が差し込んだ。よどんだ空気がドアをめがけて抜け去った。
 カワニの片手に握られた平たい機器。
 片時も端末を手放せない、手にしていたい、一体化。つながりはかつてのテレビの役割を担っているのかも、慰めて自身の居場所を、大量に情報を流しいれることで生きている錯覚を植えつける、もっと欲しがる、ついつい見てしまう、考えは二の次、教えてくれるのだ、尋ねなくても調べずとも、欲しくもない情報を世情に乗せて届けるために。
「アイラさん?」カワニがたこ焼きを勧めた。丸い玉、残り少ないので食べたい本心を隠しきれない私を察したんだ。
 椅子を軋ませた、背もたれの金具の老朽化、無口な老人よりもおしゃべりが比較的多いか、ねじのつぶれたボルトは後者だろう。「午後、曲が仕上がる」たこ焼きは手付かずのもうワンパックを指差す。お昼ごはんにはちょうどいい。「クライアントが抱える内情に興味はないので、ついつい口を滑らせないよう気をつけてください」
「興味は沸きますよね、何でまた渡米したんだろうかって……、ああ、だからってそれとなく聞き出したり、交渉を優位に進める駆け引きの材料に使うなんて、考えてません、誠実さがなりよりですからね、この仕事は」
 たこ焼きを回収、背中を向けることで話を断ち切った。外に出るつもりだったが、まあいい、あきらめた。次の仕事に取り掛かることに決めた、気分転換ならば室内でも切り替えは可能である。あきらめの早いカワニは数分でスタジオをあとにしただろうか、ヘッドホンをかけた私に届く音は前々回の製作曲である。二つ前との共通項と一つ前との変容を最近では心がける。コアなファンは私に年中張り付く、曲の隅々までを網羅する。規則性、物語性、使用される歌詞の頻出頻度、楽器、裏声の回数。市場は限りある消費者の奪い合いに発展を遂げる、混沌、コスモスはどこへ。音楽ディスクにこだわる面々は徐々に取り残され始めた、音は無料で耳に届く時代をもう数十年を生きる、独占を狙う、次の媒体の探求を模索、夜目を光らせる。何しろ、有り余る音からえりすぐりを提供する時代である、遮断や飢えを生きた体に染みる待ち望んだ吸収は落下した砂。この業界で生きる術をアイラは常に捜し求める。だから、大胆に情報は、想像を膨らませる最低限の告知に努める。車の販売とは正反対だ、売出しを叫ばないと売れ行きにあちらは陰りが見えるてしまう。広告に要する費用分は販売台数の伸びによって回収されているのか、それは大いに疑問が残る。予測するに他の法則を試すことは難しいのだろう、これまでそれなりの成果を生み出してきた自負が妨げ……、思い込みかもしれないのに。
 生産性を上げる、
 アイラは決意を固めた。立ち上がったみたい気配がつむじあたり覗く。
 制限と対極に陣取る大量かつ微妙な違いを織り込む、継続購入を狙う曲を作る、数作、数十作に渡る。製作から販売の期間を縮小する、これを義務付けた。
 誰のため、生きがいは?あくせく働いて息が上がるんだって、自覚したらどうなのよ。
 面白い質問だ、と思う。私のためでしかない、そうでなければ生きてなどいない。生活空間に潜む生物は皆、己を生かすための起爆剤、糧、背負い込んだ責任に振り回され、操るんだ、知ってか知らずか。まったく、そう世界は、まったくなのだ。
 集中力が切れた。エネルギー量の不足を除き、彼女はいかなる環境であっても楽曲製作に没頭できてしまえる。
 たこ焼きを手に取る。
 一人ソファに座った。
 誰もいなくてよかった。
 誰かいたら食べられなかった。
 

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