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追い詰める証拠がもたらす確証の低下と真犯人の浮上  2 ~小説は大人の読み物~

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「居場所は見当がついてます」種田は口を開いた。C空港に合流した朝の挨拶から数時間後の、自発的な彼女の発言だった。警視庁から名簿を借りたのは鈴木であり、後輩の種田は性別によって交渉の場からはずされた、当人にとっては本望である。不愉快にゆがむ警視庁側の署員、その男性にとっても避けたい光景に違いはない。
「どこ?」鈴木が訊いた。首が軽く倒れる。
「君村ありさ女史の居場所、レコーディングスタジオです」
「なぜ、アイラ・クズミがそこにいるとわかる?」今度は相田がきいた。
「一階に利用状況を書き記すボードがありました」
「よく見てんね」、と感心の鈴木。
「三階って言ったのは熊田さんでしかた?」相田は頼りない記憶を呼び覚ます。
「僕は見てませんよ。車止めてたんですから」鈴木は情報を知りえなかった無知を訴える。
「どのぐらい、かかりそうだ?」助手席の熊田が尋ねる、一定を保つ温度。
「渋滞にもよりますが、四、五十分といった具合でしょうか」相田がエンジンをかけた。エンジンスタートはボタンが主流らしい。
「少しは眠れるな」
「僕も眠ります、相田さん安全運転お願いしますよ」
「文句は聞きいれませんよ。事故に遭わずして目的地つくためまわり道を優先して渋滞を避けますので」畏まる相田は熊田にも向けられた発言だから。「運転席なら眠気に耐えられると思ったんだけどな」
 
 相田の予想を十分ほど下回って車は、目的地のレコーディングスタジオに到着をした。
 時刻は午前の十時三分。
 車を先に止め、一向は四名揃ってビルに向かう。一階のボード前で多少渋滞、相田と鈴木が掠れたアイラ・クズミの文字にいちゃもんをつける
 ノックの意味は効果を期待できない防音扉、押し開ける鈴木が彼女たちの代表者を率先して務める、横顔に漏れる嬉々は呼び声に色をつけた。
 しかし、呼びかけはむなしく、響き、回った音をそっくり室内は山彦を種田たちに返した。
 肩を落とす鈴木を視角に入れる彼女たちが不意に廊下から呼ばれた。髭面の男性がコンビニ袋を下げる、足元はスリッパに似た形状の履物。
 アイラ・クズミの仕事仲間、キクラというエンジニアと名乗る。彼は先手を取ってアイラの行方をこちらが尋ねるよりも先に居所をしゃべった。もっともエレベーター側の種田が応じる係り。
「先ほどまで一緒に仕事をしていた、と言われましたが、別れた時間の詳細をお聞かせください」
「一時間ほど前、だったと思います。……警察の人?」キクラの語尾が上がる。
「はい。手帳をお見せしましょうか?」警視庁の名を借りず「警察」、の部分だけを認める。所属部署も控えた、訊かれたときには惜しみなく詳細を明かすつもり。
「いや、そういうんじゃなくって……」キクラは側頭部を掻く。ビニール袋ががしゃんしゃん、なぜ反対の手を使わないのだろう、種田にとって不可思議極まりない行動選択。彼は軽度に腫れぼったい目を見開いてるようだった。「どことなくアイラに似てるなって」
「種田がですかぁ?」反論があるらしい、鈴木が横に並んでまじまじ顔を眺めた。本心を語ればいい、私の意見はいつも二の次に押しやられるではないのか、と種田は内心思う。
「雰囲気というか、なぁーていうんでしょう、その立ち姿って言うのか……」
「佇まい」熊田が助け舟を出す。骨に響く、よく通る低い声だ。
「そう、それ」
「いっちゃあ、あれですけど、人を惹きつける魅力はアイラさんが断然、ダントツですよ。種田、なんて、ふんっ、比べよう、が、な、い、……なくは、ないかな」にらみを利かせた。
「警察の人が尋ねてくるってことは、機内でのあれですか?」
「ご存知ですか、オフレコなのに」種田の真横に進み出た熊田が凄みを利かせる、きかせてばかり、鈴木とは対照的に熊田のボディアクションと声の抑揚は極端に少ない。
「まあ、関係者といえば、関係者になるのかな。仕事仲間ではありますしね」