コンテナガレージ

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就寝前 消灯 ハイグレードエコノミーフロア

そのあと、発言までに数分を要した。こちらの機

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能が回復することと、相手の心象を加味したのである。私らしからぬ配慮。前の座席にアイラはしゃべりかけた。声のかかりを確かめるような出だしがすぐに平常の滑らかさに戻る。会話を二日以上忘れた時のいつもの症状だ、と命の落とし寸前の数分前までの奇体な体験者とは思えない、いや、わざと平坦に彼女は言い渡す。
「過去、得られた価値はあなただけが消費。拡大を望むなら、手に余る価値を作りなさい、まずそれが第一。次に生み出した余剰を新たな生産に回しなさい。お客はしかし、これまでと等量に、同質を目安に希望額を定める。他の生産品を買う余裕を持たされてはいない。それゆえ手中に収めるには固定的に支払う資金の対象、そのどれかにとって代わる必要性、義務が生じる。独創と手を組んで棺桶に入らなくては。そう、あなたはこれまで際限のない要求をお客へ突きつけてしまった。お客の資金は二の次、という思い込みがどれだけ思い上がった態度か。あなたが生み出した価値は模写に過ぎない、偶然漏れたスポットライトに拾われた一時の作品を使いまわした、ノイズと複製よる劣化の塊だった。注目を浴び初めたった数年間で新しさが干上がる。人気が衰えたのは、流行にあやかった現状に居座りたい弱さが露見をした。無論、留まってお客が還流する好都合なシステムはお客だってそれなりの良し悪し浮き沈みの感度ぐらいは持ち合わせている。そうしてお客はとっくにその場を後に、腰を据えるのはあなた、ただ一人。価値を作りなさい。これまでの延長とこれからを期待させる、資金を投げ打ってでも手に入れたい、あなたを作れ」
 トイレに立った。
 戻る頃に姿が消えるてることを願った。
 個室の壁は適度な距離だ。つかず離れず、見守り知らん顔。そこにいるようで他所様との一枚板。
 人と係わる、誰かが命じているのだろうか、避けるだけでは振り払えなくてより専門性に富んだ個人的事情を抱えては、無作法にめがけぶち当たる。よりにもよって不自由な環境下でそれらは仕掛けらる、マタドールのごとくひらり避ける術があったら教えて欲しいものだ。
 無性にタバコを喉が欲する。
 トイレを出たアイラを襲う好例の衝動である、なるほどスタジオでの行動がルーチン化されていたのか、彼女は行動を意味づける。
 確認のため、息が吸えることを、不純物を多量にそれでも呼吸は生体を維持する酸素を体躯に送る、彼女は喫煙を機能チェック、と捉える。言わずもがな、対外的な言い訳である。つまり、スタジオで私は息苦しさに耐える、ということかもわからない。
 カーテンがかかる。エコノミーフロアに続く通路だ。機体が揺れ、彼女は両足を踏ん張る。素材そのものが重いのか、それとも床と抵触しかかる折り返した裾に重みを持たせたのか。
 立ち入りに禁止の表示板はカーテンの向こう側に張り付く。揺れに応じて見えたり、消えたり。トイレはうっすらフットライトが灯る。
 miyakoの出入りは他のお客に見られてるかもしれないな。他人を危惧、良い切り替えの合図、それほど自らに生命の危険が及んではいない、少なくともこの先の数瞬までそれらは回避を約束したようなもの、口約束ではあるが効力は変わりないだろう。
 アイラは席へ移ろうと決めた。さてと、これからまた眠る、もう一眠り。時計と端末が欲しくなった、この心理に駆られて時計がやっと必要に思える。したがって、ただこの瞬間をやり過ごしてしまえば、無用な腕に絡みつく蛇にその価値は下がる。
 通路を戻った。
 訪問者は消えていた。紙が一枚座席に。
 "いつか殺して"
 細いボールペンでパンフレットの切れ端に文字が書かれていた。
 人を殺す権利を得た。殺人の概念に含まれるのだろうか、私たちでさえ互いの本心は未確認なのに、法が、第三者が我が物顔で取り締まる。司るものとしての信念を常に言い聞かせ反芻ぬかるみに惹かれないように貫く、既にもう、ええ、それは汚れているのと同じなのに。
 元に戻れるとしたら、アイラは二つ前の席に座って死を考えた。復活と一度きりの生。甦る、一度くらいは……、殺人は頻繁に起こるのだろう。なぜ、殺したのだろうか、頭上に横たわる登場以前の死体になりきる。いつ、何者が、いかにして命を奪えたのか。ああ、アイラは顎を引く、パンフレットとを網に挿す。完全犯罪が唯一、殺す権利を一手に掌握する。猟奇的に右側の口角を意図して引き上げた、自浄作用、感情に反した筋肉の動きは訂正の命を受ける。無表情に口元が引き戻された。
 座席のシートへ背部とでん部、腿裏を力強く強引に押し付けて現実の暗がりを感覚器に頼った。
 これまでは鼓動を刻む、少なからず均衡を保っていた。蓄積が、一歩を踏み出す設備の買い替えに背中を押した……。壊れる、予見はしていたさ。いつか身に降りかかる性能の劣化だ。人は誰かに殺されてる、と思えてきた。大がまを持った死神が骸骨なのは、そういうことなのだろう。