コンテナガレージ

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仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

追い詰める証拠がもたらす確証の低下と真犯人の浮上 3 駐車場

「十分とはいえない聴取だった」
「では、心残りがあるとでも。私にはそうは思えません」
「うん。だろうな」
「はっきりとおっしゃってください」
「強気だな」
「いつもです」
「あの三人、miyako、山本西條、君村ありさはアイラ・クズミのファン以外でそれも別の目的を理由に搭乗した。しかも同業者」
「動機から犯人を検討するのですか?」
「安易か?」
「非効率に思います」
「一週間だ」熊田は言葉を切る。「時間をおいて刑事が目の前に姿を見せる、それも以前とは別の場所、予期せぬ時間に不意をつかれたタイミング、何かしら後ろめたいことを隠している心理は表情や態度に出やすい」つまり寝床に乗り込み、真実を突きつける。違う、それでは対象者の理解力が追いつかない。普段奥底に眠る本質を驚きを餌に咥えた瞬間を逃さず捕らえる、ということか、熊田にしては荒っぽい措置といえる。長時間没頭した日常の直後に背後から肩を叩く、姿はそれまで隠しておき、瞬時にこちらの顔と刑事と継続捜査、彼女らがひた隠す「死体」とのつながりを連想してくれなくては。
 ステレオの音声を遮断、スイッチを切る。種田の特異な体質を持ち、妨げとなる周囲の音を自由に消し去れる。興味に応じた取捨選択機能、と言えばわかりやすいか。雑踏であっても考えを妨げるボリュームに絞るので隣人の話し声はきちんと耳に届く。ちなみに瞬間的な没入感は一般的な「ゾーン」という領域をはるかに凌駕し、彼女は自在にその感覚の統制を手中に収める。なにしろ、それがなくては生きていられなかった必然の機能であったのだ、今話すことではない、これはまた別の機会に。
 ラジオの公開収録、坂の途中にガラスを隔てた細長いブース内部でディスクジョッキーが和製英語と英語を履き違えた流れるようなしゃべりを続ける。目的地へ十分ほどで着いた。建物の向かいに駐車場があり、そちらへ車を停めた。
 道路を小走りに渡る。ディスクジョッキーが曲の合間にこちらを何気なく視界に捕らえるも、興味は薄く、ディレクターだろうか紙を手にした人物から指示を受ける。
 開局二十周年の看板とお祝いの花飾りが埋める入り口を通る、目隠し用に庭に並び植わる観葉植物が足元から腰元までを網羅、左手に出迎えるはずのカウンターは無人の受付だった、丁寧にも侵入者を導く数枚の紙が用意、出演者用の楽屋の割り振り表を熊田が覗いた。
「堂々押ふかけるぅとぅはんねぇ、はひぃ、どうぉふぞうぉ」物を詰めたオレンジ色の声。「……ああ、刑事さん。あのしつこい刑事さんだ」眉が高く引きあがった。目を通す書類と熊田にmiyakoの視線は行きつ戻りつ、ペットボトルのお茶を豪快に肘を上げて傾ける、尖った肘は体躯に隠れて見えない、彼女はねじる上半身を楽屋のドアに向ける。対面の人物へも警戒の色を彼女は飛ばした、目の動きは口よりも肌よりも正直者である。
 意表を突かれた、もしくは腹をくくったか、山本西條はつんと澄ました取り繕う表情で座る。ロックを標榜する人物が不用意に普段着に買い揃えるだろう細身のパンツは、女性らしさとたしなみの象徴にいつのまにか引きあがる揃えた足の並びを諸共せず、大胆にも開きを見せ付ける気構え、勢い、あざとさが感じられた。そのように捉えてくれ、いやらしさはそちらの判断だから、と何か聞いてしまったら断れない話を聞かされたのと、とても似通った山本西條の態度であった。