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追い詰める証拠がもたらす確証の低下と真犯人の浮上 4

もう帰ってこないかも、キクラの言葉は二人に追い討ちをかけ、現在に途方にくれる、というありさまが二人の仲たがいを誘発した。なお、早朝便の鼾による睡眠妨害も多分に土台を形成したことは確からしい、移動距離の長さとその出発時刻の早さに睡眠は理に適った一日の通過義務に思われる、影響が少ない鈴木にしても車内で少しばかり取りためた睡眠は不十分であったからだ。他方では、上司の熊田にどちらが報告するか、互いのキャリアを発言に忍ばせた鈴木の魂胆と、それを見抜いた相田、このような構図、見方もできる。
 遅れるにしたがって益々対策と気まずさは過密、度を越える取り返しのつかない事態へと発展を遂げる。後手に回ってしまった以上、二手先を想像に上げるプランが熊田への報告に通じる数少ない一本道だ。相田はそれを嫌というほど知りすぎる、だからこそ底抜けに明るい鈴木のキャラクターに頼りたがるのだ。
「相田さーん、僕行きますからねぇー、相田さん、ねえ、相田さんってば!」
 相田は一点を見つめていた。受付カウンターに従業員がいるのかと思ったが、もぬけの殻だ。何をそんなに見つめて、しっかり受付の内部が見渡せる相田が座るソファまで鈴木は足を進めた。そこで、目ならぬ耳を奪われた。
 ♪~
『空港内で二時間は拘束されてましたよ、もう大変でしたよね』
『ええ、まあ』
『職業は内緒ですよね?』
『それが出演の条件です』
『ふううっ。楽しくなってきたぁ。なんだかラジオの地位が低くなったって言われるこのごろですけどええっと、なんと呼んだらいいかしらね』
『鈴木でお願いします』
『鈴木さん、もちろん本名じゃありませんね』
『本名かもしれません。匂わすことで選ばれる』
『じゃあ、山本でもよかった、そういうことですかぁ?』
『本題に入りませんか?ディレクター、スタッフの方でしょうか、曲を流して、と言ってますよ』
『おっとう、インカムの指示を言わないように。いやあ、生放送らしくなってきました、本日も参りましょうか、山本西條のデイバイデイ。一曲目は来月発売、移籍第一弾シングル、私山本西條で、"アレグロ"』
 ♪~
 疾走感、駆け抜ける音楽が流れた。
「……今のって、熊田さんですよね、そうですよね、絶対、あんなぶっきらぼうな人いませんもん」
「鬼の居ぬ間にか。しっかし、刑事の出演が上層部に知れたら、またなあがい長期休暇がもらえるかもな」
「もうっ、のんきに休暇どころか謹慎ですんだら万々歳。今度こそ首ですよ、確実に懲・戒・解・雇」
「しゃべった内容だな、処分の重さは」
「種田に連絡してみます?」気乗りはしない、種田を通じてこちらの失態が熊田に伝わるのだ。
「かからない。たぶん電源は切ってる」局内だから、ということか。
「出演が終わるまでだ」
「次の手を考える」
「ああ」
「そうと決まれば、タバコを吸いましょうか。……部長のでよければ」
「のんきだな」
「居眠り前ののんきな僕らには適いませんよ」鈴木は相田の前を通って自販機でコーヒーを買った。
 静かだ、音楽は流れるが、どうにも生きているように聞こえないのだ。
 そして自販機も静か。
「二手に分かれるかな」
「もう一台車両が、そうしたら必要になります。僕が借りてきますよ」コーヒーを手渡す、鈴木ははしたない真似を嫌う。隣に腰を下ろした。彼らが吸った灰が円筒形の灰皿に残る。ソファの切れ間にそれは置かれていた。