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追い詰める証拠がもたらす確証の低下と真犯人の浮上 9

「何で僕ら建物を出ちゃったんでしょう、君村ありさのところについでに戻ってるか確かめてもよかったんですよね」
「怪しまれる」
「なるほど、考えてますね相田さん。やっぱり一眠りした後は頭の冴えが違うなぁ」
「どうとでもいえ。反論を期待する奴ほど怒りがいはうせる」
「お疲れ様です」鈴木が五メートル先で手を振る。二人の背後で人がビルに入っていく、もしかすると初めてではないだろうか仕事場としてこのスタジオビルを認識したのは、種田は熊田と待機組みの鈴木と相田に合流を果たす。二組に分かれてかれこれ二時間ほどが経つ。
「アイラさんと会えました。まだスタジオにいますよ、もしかしたら休憩でまたタバコ吸ってるかもしれません、僕が見てきましょうか」これほど顔に皺がよるものだろうか。
「それで?」熊田にはしかし効果は薄い。
「大胆な推理に面食らって、頭を冷やしてますかね」と、相田。彼はアイラ・クズミの推測を脱しないどころか、空想劇、夢の出来事を忘れないうちに話しきった内容を理路整然と話す。物事の把握にかけては相田は非凡な才を見せる。
「進展はないな、三階には顔を出したか?」熊田がきく。ビルを二人の男性が出てきた。鈴木が脇によけて通り道を空ける。一人は外国人で二人の会話は英語である。
「いえいえ、これからですよ」種田たち越しに遠ざかる二人に意識を向けて鈴木は答えた。
「四人は多い、二人は車に戻っていてくれ。君村ありさは苛立っていた、なるべく矛先が向くだろう対象は減らしておきたい」熊田はさっさと入り口に吸い込まれる。
「あっ……」
 種田も彼に続いた。鈴木の名残惜しい態度はおそらくラジオ出演に関する詳細だろう。まあ、熊田が嬉々として鈴木が報告したのと同様に進んで事のあらましを告げることはありはしない。聞いていたのならば、その通りだ、と会話は寸断するのが落ちだろう。
 定期的な掃除の習慣のように、ロビーは人気のないデフォルトを几帳面に保つ。