コンテナガレージ

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犯人特定の均衡条件、タイプA・タイプB 2

「帰りも搭乗客が一まとめに帰ってくることがわかって、アメリカで自由行動が許されたのは、冷静に考えると一人一人に見張りがついてなくちゃですよ」鈴木は言う。「だって、そのまま現地で一生暮らす覚悟を持つと、帰国便に乗ってです、おめおめと日本警察の聴取という危ない橋を渡るもんですか」
「捕まっても良かった」味噌汁に視線を落とす相田が呟いて、啜る。赤味噌の香り。
「またですか、死を厭わない、独房も刑期も何のその、やくざとかやんちゃな奴らとも毛色が違う、一昔前のいわゆるキレた、とも微妙にずれてる、心がない、コミュニケーション不足っていうものまた別物ですね、アーん、これが最近の傾向なんでしょうか?」嘆く鈴木。しかし、食事は喉を通る、根が明るいので、悩んでる様子には見られない、いつか話していた彼の悩みである、種田は彼の性質を思い出しつつオムレツを食べ終えた。柔らかな触感、そろそろ食べ応えというブームが到来するのかも。市場の活性化に最適なエッセンスは異質である。
「ねえ、聞いてる種田?」高い声、鈴木がきいた。
「君村ありさの発言を振り返りますと、二週間前に聴取した内容において不可解な点が浮かぶ。先月音楽業界に復帰を果たした、再出発に焦りを感じた人物が心象を下げる発言を行うでしょうか。緘口令が敷かれる、予測をしていたかもしれませんが、それは出版社等の公の機関と不確かな足取りを残すネット上の文字情報に対しての規制です。口伝えの噂は生きる。マイナスの発進を予定に組み入れたのは解せませんね。もっとも単純な恨みが行動を駆り立てた、ともいえます。背後関係が明るみに出ないのであれば、こちらが妥当な観測でしょうか。ちなみに、皆さんは彼女の存在には気づいていなかった、キミアリという愛称で彼女を呼んだ鈴木さんでもわからなかった。彼女が名乗らなければ、綱渡りの橋は数枚、底板が抜け落ちた程度で済んでいた」
「それが、なんだっていうんだよ?」箸をなめて相田が要点にまとめろ、と視線を向けた。応えたのは、熊田であった。
「名乗る理由が欲しかった。そして存在を引き付けたかった」
「ええ、私たちが辿った道を君村ありさはてぐすねを引いて、格子の隙間から誘いの手を振る。山本西條をゆすり、miyakoに死体の存在を植えつけた。私たちが調べ、疑問の解消するために再び聴取に自分の元を訪れる、これを願った。"死体"は彼女が言う偶然だったのかもしれません、単に印象的な発言がよりにもよって真実と交わってしまった」
「注意を今まで引きつけた。他に犯人がいるから、犯人をかばってるからっ、それか犯行を見てしまったから!」
「声がでかい」
 熊田が言う。「だが、乗客の気を引き付けておくだけでは不十分、控え室への移動はたどり着くまでに見つかる。運良く呼び止めをかいくぐるとしてもだ、帰りも同様に目を盗む必要がある。満席、しかも我々と三人の歌手を除いた乗客はアイラ・クズミの熱烈なファンのはず、見つかり次第抜け駆けを問い詰められることは必至だろう。しかしそんな場面どころか、乗客同士の会話さえほとんど聞こえなかった。あれは互いにけん制し合う気配だ、主に女のな」
「ということは、僕らはとてつもなく重大な箇所を見落としたってことですかぁ?」
「お前いい加減にしろよう、浮かれてんじゃねよ、このおのぼりさん」
「ふみませふ」頬をわしづかみにされた鈴木、ペンギンの羽のように漆塗りの箸がはためく。
「種田は、どうみる?」熊田がきいた。ストレートな物言い、彼が意見を求める、その場合は捜査に役立てる方針を欲するか、検討をつけた事実の確かさの是非のどちらか、後者が有力だろう、種田はそれでも回答に応じた。質問自体が貴重な出来事、頼られている、という誤認であっても、いいや、想像内で彼女は首を振った。
「君村ありさの証言にもうひとつ不可解な点が見られます」
「どこぉ?」開放され、自由の身となった鈴木はキャロットジュースもとい、スムージーを飲み干す。べっとりグラスの内側に張り付いた野菜の絞りカスが重力に任せた落下。