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JFK国際空港内 控え室 ~ミステリー小説~

「事件についての質疑は終わりましたか?場を和ますブリッジにしては長く、そして多用が目立つ」
「それではもうひとつだけ」色が変わった、気配のコントロールを身につける人物特有の重厚な威圧を放つ。「その若者は、突然始めたあなたの予期せぬツアー先行予約のトップを飾った」
「興味深いですね。パスポートは有効期限内に限った、期限切れ、再発行は対処の煩雑さを理由に採用を断りました。埋め合わせの対象はビジネスクラスの観客です、勘違いをされた方はそれまで、引き止めることはしません。いずれ他人の趣味や流行に誘われる人であった」アイラは立ち上がる、手の内をやっと見せた捜査官との会話は雑談を下回る価値に属する。彼女は通訳を見下ろす。「ドアを出て、左右どちらが出口ですか?」
 めまいが襲う、捜査官の手元がふらつきの要因だ。
 手をこまねいたデスクに隠れる白紙、そして私に求めるマジックの文字、価値があるのだろうか、その人物が書き記した、となぜ言い切れるのだ。夢に生きてる、仮想の販売は虚構だと口々に言い続けている、信じるな、妄信は危険だ、とも。
 ドアは簡単に引き開く。当然だ、罪を犯したのではない、事情を訊かれた旅行者。
 廊下、通路に仕事を放棄した人物が二人壁に張り付いている、道を尋ねた、出口はどちらか、と。出口、方向、私が彼らに尋ねる、スマートな言い回しやテクニカルタームスラングを用いる必要はない、堅苦しく、古くて、いびつだが、意味は通じる。欲しいのは答え、正確さはどうだっていい。
 追い越される、捜査官が慌てて案内を買って出た。あの部屋へ最初に連れてきたのは彼だ、負い目を感じたのだろう、浅はかな行為として求めようとした仕事を越えた個人的な要求を呪ってくれるだろうか、これも不必要な考え、この機会をもって出会いは最後となるのだし。
 若者に変容を遂げた手法はまとまりに欠ける。思いついては、採用を破棄する。脳内での作業。半世紀を重ねた年齢に思えたが、空港の喫煙室、機内の彼は過去に反し若々しい。白くつややかで光をはじく細面ながらふくらみを湛えた顔とは対照的だ。若返りを取り入れる人物には見えなかった。突き当たりを左に曲がる、階段を下りて、屋外に出た。侵入を拒む塀が白く迫る。車が一台止まる。カワニが降りてきた、八の字の眉は健在である。
 自然と大きくよりもさらに大きくを心がけた。入り混じる低音が砂嵐のように空間を揺るがす、震える空。
「ロスを取り返す、何分の遅れです?」
「急げば、間に合うかもしれません。事情は説明済み、遅れの了承も取り付けました」
オープニングアクトの遅れは開催のずれに直結します。いいですか、可能な限り定刻を目指す。カワニさん、この後世に及んで渋滞による遅れを忘れてはいませんでしょうね?」カワニの顔が青ざめた、どこか抜け落ちるのが彼の性質。「ギターをトランクから下ろしてください、二本ともです。最寄り駅をどなたか教えてください。地下鉄が張りめぐるのでしょう、地図は端末から取得します、余分な紙幣があればいくらお借りして、ライブ後にお返しします。運転手さん、最寄り駅まで何分かかります?ええ、一番近い駅です、いいえ、遅くてもいいのです、確実に目的の時間が私の望みですから」
 抱えるギター、足元にも一本。急いでいるのか、それとも緩慢であるのか、土地のリズムを知るべきだろう。
「ベビー」、そんな表現が聞こえていた、空港内である。彼らにとっては真実。触れたデータが異質を訴える。共に時間を過ごすのなら、控える発言だ。若そうなパーツであっても皺は刻まれる、傍目八目。……反対もありるのか、なるほど、彼女は僅かに口角を引き上げて瞬く間に元の真一文を好む。
 死体について考える私がライブを差し置いて支配に身を任す。まったく、そう、まったくだ。
 無駄であるのに、厄介な構い事。もう他人事だ、私は解放されたのだから。
 アイラは景色を収めた。瞬きをシャッターに見立てた。郷愁を煽る風を浴びる。目的地を頭に入れた。端末画面、降車駅からの道順を読み取る、スタイリストのアキに衣装を取り出してもらう、スモークフィルムはこのときばかりは私の味方、スカートとは便利だ、上から履ける。上着はインナーの上から着込んだ、とにかく到着が最優先である。