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論理的大前提の提案と解釈は無言と一対、これすなわち参加権なり 4~無料で読める投稿小説~

「返答が答えそのものです。保安員に予期せぬ事態が起きた場合に備えた代役が鈴木さん、あなた方は招かれざる客であった。犯人の思惑は保安員一人か鈴木さんの登場を想定していたでしょう、複数人刑事が揃ってはその場を掌握しかねない。あくまでハイグレードエコノミーフロアの関係者が現れた死体の事実を隠蔽、という状況設定が計画の土台を形作るおかしなこの事件の要です。もっとも、あなた方は私の認知にも自らの職業を名乗り出ることはしなかった」
「そうですよ。死体の存在が話題に上った、なぜ種田さんたちは黙っていられたんです?」、とカワニが純粋に投げかける。
「彼女たちは休暇ではなかった。所属部署の人間が同時に四名も休暇を取る、それも一週間という長期。あなた方の部署の所属人数は知りませんが、行動を共にする者たちが一斉に休養に入っていられる、罰則を受けたのですよ」
「謹慎処分中でした、自宅待機を命じられてました。それがなにか?」
「待機は職務能力の使用禁止を意味する。事実上、派手な行動を取らなければ、更なる指導を受けることもなし、刑事として振舞う場面の回避に海外は適当な滞在先、よって彼らはツアーの参加に同意をした」
「かなり強引な解釈に思います」弱まった音声。
「いえ、おおよそ的を射た指摘でしょう」
「よくもまあ、すんなりと搭乗を決めましたね、刑事さんたち」
「格安料金で渡米、利害が一致した。蔑むならばどうぞ、あなたに嫌われても私は不動ですし、好きではありません」
「そこまではっきり言わなくても、いいのにぃ」
 曲がうごめく、外へ出たがっている。
 外装を着せてやらないと、手遅れになっては、二度と形に収まってはくれない。
 アイラは口調を早めた。
「警察の権利を主張することをためらうあなた方はそうして監視役に収まった。一応、刑事の倫理観に乗っ取り、犯人はあなた方以外のお客に定めました」
「ご親切に」
「寒気がする、今のやり取り」
「でしたら手短に十和田の犯行を説明していただけますか?」尖った言い方だ。
「私もそのつもりです」アイラはテーブルへ体を向けた。天板が顔の輪郭、端末が口に見えた。カワニの手土産が左目、右目が彼のカップ。「乗客の増減は認めない、客室乗務員及びパイロットの関与も否定、死体出現フロアの私たちも潔白、フロア内の出入りは基本客室乗務員たちのみ。これらの前提が保安員の十和田が犯人たら占める証拠を彼自身が助言を与えてしまっている。第一の疑問を解決します。死体はどのようにどこから沸いて出たのか。自らの意思で被害者が荷物棚に収まる、これが最良。殺害後の死体は持ち上げる手間が生じる、性別によっては他人の手を借りる必然性も追加される。リスクは極力軽減しておきたい、というのが人の心情でしょう。例外として荷物棚に上る際手を貸した人物の存在が浮かび上がるが、推測は一人に限定していますので。さて、死体は自らの意思で荷物棚へ。これではまだ死体とはいえません、生きていますから。内部損傷や持病の悪化、薬の服用、外部損傷を除く理由によって荷物棚の人物に死が訪れた。長時間のフライトに生理現象の対策を講じていなかったことを鑑みると、私たちの前にすぐに現れるつもりだった。憶測です。生きたまま荷物棚にアメリカ到着まで過ごす理由はまったく見当たらない。しかも、ハイグレードエコノミーのフロアだけが荷物が少ない事実を被害者は知りえていた。前後のフロアでは搭乗してまもなく、飛行機が滑走路に移る前に悲鳴と共に生身の人間の異常な生態は見つけられる。よって、荷物棚に潜む行為は私に対する何らかの働きかけを意図したものだ、ということが導ける」アイラは二人の反応を待った。続きを聞く姿勢、無言が返される。「さあ第二の疑問は搭乗にいたる経路。空港関係者、とカテゴリーに括りましょう、彼ら空港関係者の手助けなしに経路を開拓した、と私は考えます。被害者自身か、はたまた十和田さんとの共同作業か、順を追って紐解きましょう。空港関係者のコネクションが利用できないとなれば、搭乗前に機内にもぐりこむことは不可能です。彼が音楽関係者であることは後日、あなた方警察の調査が裏づけを取った。私たちが踏み入れる機内への経路は通常の搭乗口、これを通った。私たちはあなた方を含む搭乗客がフロアを縦断してしまわないよう先に搭乗をした。空港の搭乗ゲートで乗客と顔を合わせない配慮でもあった。ところが、ビジネスクラスのお客は私たちよりも先に機内へ乗り込んでいた、搭乗時刻をフロア別に分けたアナウンスと誘導だったのです。私は大変な思い違いをしてました、搭乗前のゲート付近で目が合ったお客さんはビジネスクラスの乗客だったのです。つまり、通常エコノミークラスを埋め、中央のハイグレードエコノミー、機首側のビジネスクラスという流れが私たちのハイグレードエコノミーが最初、次にエコノミークラス、そして最後がビジネスクラスであった。このような三段階に分けた搭乗が行われた。アナウンスは特別三度、私たちの搭乗は架空の便名を告げていましたので。さて、無言の反論に答えましょう、機体に続く経路は搭乗ゲートを通じた一本であると疑いもせず私は受け入れていた。そう、機体を繋ぐ経路は二本存在していた。刑事さん、そのような二本同時に乗客を迎え入れる機体は実際にあるのですか?」
「……国際線の一部に使用が認められる。到着便のみ、主翼に近い側に二本目のゲートを繋ぎます」