コンテナガレージ

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論理的大前提の提案と解釈は無言と一対、これすなわち参加権なり 6~無料で読める投稿小説~

一週間、曲を寝かせた。
 外は軽く凪いだ海、埋め尽くす人の群れは鳴りを潜める、今日は週末だっただろうか。アイラ・クズミは曜日の感覚を切り捨てる、人の流れが曜日をほぼ正確に教えるのだ。開けた空間の登場は早い。今日は祝日なのだろう、と彼女は最寄り駅からスタジオまでをさくさく歩いた。
 事件、についてカワニは時折入手した警察の動きを伝えていた。十和田、という若い男性は消息を絶ったそうだ。また、警察が捕まえたmiyakoへの過熱報道は一時の盛りを乗り越えた。メディアの大半は過去と現在のリンク、罪を犯す兆候というこじつけをあらかた引っ張り出してしまった。材料の枯渇、賛否に対する持論と正論と反論の落としどころを互いでけん制し合い、協議を重ねた。時季をはずした発言は格好の標的になる、大いなる力に命じられているとは思いもよらないのだろう。
 何度か推測の詳細を求める連絡を警察からもらったが、忙しさを理由にカワニには断りを入れるよう頼んでいた。実際のところ、十和田の黒幕説を証明する確たる証拠をアイラは提示したわけではなかった。価値体系が彼の犯行を明示していたに過ぎず、殺害の証拠は依然として未確認だとそれとなくカワニが話していた。
 miyakoの自白は正しいのかもしれない。証拠を待ち焦がれた最中の第二の犯行、しかもその企ては露見した。自白が彼女を補う。効果的に彼女は自らを世間に売り込めた、といえるだろう。
 ビルに沿って清清しい朝の通りを歩く。道路を挟む右手に見えるお寺にはこの時間から人が並ぶ、観光客だろうか、休みの日に限って早起きをする、アイラには理解し難い行為だ。路地を折れ曲がり、ビルが迫る光を遮る道、ひんやりと温度が下がる。
 一階ロビーの掲示板に掠れた文字を確認、移動式の箱に二階を命じた。
 会見をまとめた記事の一件に数箇所の訂正を加え、彼女は出版の許可を出していた。後にも先にもアイラの手元に届いた文書はその一件に止まる。事務所に寄せられる記事の多くが、表層を個人的に解釈、読者を誘導しかねない目論見をはらんだ内容に変えられていた。現在私たちが手に取る記事、文字はおおよそ事実を歪曲、という手が加わった内容が対価をつけ店頭に並ぶ。制約を加えた措置を怠った現在を思うと想像しただけでも恐ろしい、とカワニは要らない心配に精神をすり減らしていたか。
 スタジオはもちろん人気がない。
 コーヒーをセットする、出来上がる間にルーティンをこなす。PCを立ち上げ、ギターをデスク横のスタンドに立てかける。もう指をほぐす寒さは解消された、春特有の南風も今日は機嫌を損ねた、指先は程よく血液を湛える。
 腰を下ろした。来年の予定を大まかに浚う。展望というほどの壮大な計画は不釣合いに思う。誰もが先鞭をつけた方式をたどっても、結果はたかが知れたもので、実際には何も考えていないのと同一であるの。私は革新という機軸に沿った活動を目指す。