コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

「白髪に見せかける、反対はいくらでもいるのに。中年のほとんどが真っ白かまだらに生えているんだから」
「見栄えを気にするものですか、男性でも?」
「そりゃそうよ。誰だって老けて見られたくはないのですよ。若さを永遠に、肌を気遣って日焼けも避ける、中性的とはまた所属が違うの、どちらでもありたい、男らしくそして女性のように美しく。中身はまるで幼いままなのに」
「辛口ですね」
「雑誌を読んでる人の気が知れません。あれは考えを放棄したのね、きっと」
「そういえば、この店は雑誌が置いてありませんね」
「あるわ、あなたには出していないだけ。ちょっと、動かないで」
「前に、耳を切られたことがあります」
「初耳」
「料金の支払い義務は撤回されました」
「治療代は?」
感染症を起こしたら請求するつもりでしたけど、まあ、数日で塞がることは予測がつきましたから」
「ただで散髪、しかも店に借りを作った。よくその店に通えたわ」
「新米だったからですよ。二回通ってそれっきりです」
「案外やさしいのね。その気遣いが私に向くのはいつのことやらだわ。まったくもって腑に落ちないのですけれど、ね」
「僕を気遣ってくれれば、それなりに見返りは与えられるんですけれどね、誰だって自分本位ですから」
「deo graitas」
「なんです?」
「神のおかげ」
 彼女ははさみを入れた。

                                  おわり