コンテナガレージ

仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

ぐるぐる、つるつる、うじゃうじゃ  4

 麻のロープで縛られた低木、アスファルトの道に張り出した深い緑をたたえる大木。スカスカの木々が奥で待機、数字の七を髣髴とさせる白い街頭が「出番かい?」、こちらのほうが生き物に思える。
 ミツキは自分の足で歩く。歩けるだろう、と男たちの視線。前に長男が歩き、後ろに弟たちという配置。
「どこまで、行くつもりですか……」語尾はフェイドアウト。面と向かった会話は極力避けたい。彼女は歩調を緩めるが、反応は見られなかった。
 要求がすんなり通った。珍しいことも起こるものだ。
「返答はこの先の池でお話しします」
「生きてますか?あの人」
「勝手にお坊ちゃまを殺されては、私どもが困ります。現当主が世を先立たれては、家が傾くのは必至」
「昨日、どら焼きを食べたんだよ。お坊ちゃまと一緒だとなあ、お前も食べれるぞう」と三男。
「ソリ、お前は一言多い」、と次男のミネがたしなめる。
「さあ、着きました」長男が振り返って、手を広げる。雑木林を抜けた先。ツアーガイドのように、ぺらぺらとため池にまつわる小話をまくし立てる。解説は上の空。ああ、ここで私の処分が下されてるんだ。
「判断を仰ぎましょうか」

 いつの間にか、声は止んでいた。どうやら私が処分を聞かないよう、頭の中で音声を作り出していたらしい。

「キクラ・ミツキさん、今後一切、あのような無防備な姿でお坊ちゃまを探すことは、控えていいただきたい」ぐっと、顔が近づく。
「まだ迷惑をかけたつもりはないですけど」ミツキは反論した。
「はあ、物分りの良さそうな方だと思っておりました、私の認識はどうやらかなり甘かったようですね」唇をへの字に曲げて、首をひねる。ふんふん、二度頷いてから長男は続けた。「……ミツキさん、お坊ちゃまはあなたのことを気にかけております」
「だったら、会わせてください。その、私、礼儀はわきまえてるつもり、です」
「ええ、口ではいかようにも。お坊ちゃまは異性としての興味をあなたに、持ってはいません。無謀な精神についての分析、行動解析に関心があるのです。私どもとは物事を見定める角度が異なりますのでね」
「今も私を観てる、ってことでしょうか?」公園に監視カメラは設置されていない。
「ええ、私どもに備わるカメラを通じて、映像は確認されているものと思います」さらに顔が迫る。「あくまで憶測です。現在の行動までは把握しておりません。正確に現用をお伝えするよう言われておりますので」
「会って、言葉を交わし、距離を縮め、深めた親交、さらに次は愛情をねだる」腕を組んだソリが言う。「到底なしえない非現実、絵空事、空想以外の説明が困難な代物。相手にはされない」
「会ってみなくちゃ、わからないでしょう!」ムキになった。
「わからない?正しく使い分けてくれよ。お前の稚拙な頭脳ではじき出した過去の経験を総動員してみろ。おのずと予想が結果を導いてくれるさ。期待と混同してもらっては困るんだよ、お嬢さん」
「会っていなかったら百パーセントだっ。ゼロでも十でも九九でなんて、それこそあんたが行ったこれまでを元にした計算でしょうが。いいか、よく聞けよ。クールを装ってるのがかっこいいと思ってるんなら、そもそも間違いなんだよ。女はね、誰のためにクールかってことを判断できるんだ、男と違って、嗅覚が働くのだ、びしびしって。あの人は、私のためでもない、自分のためでもない、私を介して自らに還る利益でもなかった。ただ、傷を負った私見つけて、何の気なしに無意識にただたんに、ふいにそっとそれこそ音に反応するように助けてくれたの。ええ、私もあなたと同類よ、それが何?いけないこと?私は言ってのけたの。黙っていた。仮面をかぶってたわ、もうだけど、ええ、おしまい。ほら、これでありままだろうが!」
「1パーセントはすごく大切だって、おぼっちゃまがいってたなぁ」三男のミネが間延びした声でつぶやく。
「……まったく」俺は認めちゃいないが、お坊ちゃまの意見が絶対だからな。口惜しい、そっぽを向いた次男の半身が物語る。「負け。つまり、お前の勝ち、勝者だ。ウィナーだよ」
「……」飲み込みが遅い。めまぐるしい変化に緩急がつくと、こうも人の反応は鈍るものなのか。彼女は瞬きの回数を増やす。
「頬の痛みについて、言及しませんでしたね?」諭すように中央の長男が切々と語り始めた。言及?とは、追及のことだろうか。私を倒した平手に対して、なぜ怒りをぶつけなかったのか、という意味だろうか。

「恐れながら、こちらが設けたハードルをあなた様は見事に飛び越えて見せた、無意識にであれ、それはあなたの資質であります」運がいいよ、次男がつぶやいていた。