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ただただ呆然、つぎつぎ唖然 3

「まだ?」女性が言う。すっかり私のことは忘れているらしい。
「はい」
「手はつけたの?」
「はい」
「予想は?」
「五分五分」女性が口笛を吹く。冷やかしや感情の高まりを表してるのか、こそこそ話すなんて趣味が悪いって話している当人たちは無自覚なんだろう。私は気がついている、ついてしまうというのが正しい。偉そうに聞こえたのなら、誤解も誤解。面倒なことこの上ないんだから。
 メイドの女性の流し目が飛び込む、多少背筋に緊張が走った。不可解な者に対する動物の防衛本能が私にもまだ退化せずに備わって発動したんだ、自分の体でも知らないことはたんと残る。驚きのためにもしかすると残してあるんだろうか。
 視線をぶった切る。目を合わせ続けることは偉くもなんともない。相手を威嚇してなんになるというのだ、私だったら尻尾を巻いてそそくさ逃げ道を探す。後ろ指を差されるだろう、しかし命のほうがもっと惜しい。かつての動物たちの行動に習ったのさ、けど、もう喧嘩をしてる人は消えてしまったな、と彼女はしみじみ干渉に浸りそうになった。
 気を確かに。言い聞かせる。目的を思い出せ。
 落ち着くために紅茶を啜る。紅茶は適温、すばやく口をつけるように。最後の一口を傾けて、思った。これ以上の放置はぬるさが味を凌駕しかねない寸前のラインだった、といえる。
 ふう、ひとつ息をつく。すると間髪いれずに女性のメイド、メイドはすべて女性であるから、女性と形容するのが正しい言い方だろう、その高齢の女性がどこから取り出したのか体育の授業でしかお目にかからない、使用前後の保管場所が気になった、紐のついた笛を劈くように吹いた。 
 目を閉じてしまった、失敗、大失敗だった。ミツキのまぶたが再び開いたそのときに、わらわら、ぞろぞろとテーブルの周囲は執事たちの壁が出来上がっていたのだ。
 執事の立っていた位置を確かめる。が、彼の姿は移動した後で、大勢の執事たちにまぎれてしまったようだ。
「只今を通過儀礼、恒例の質問ターイムに参りたいと存じます。美貌と知能にすぐれたわたくし橘あやめが司会進行役をおおせつかります、拍手ー!」
 一斉に拍手が広がる。不安定な音の跳ね返りだ、球体の天井は気持ち悪く早く遅れて音が届く。めまいがする。
「質問数は三回まで。そのうち、一語でも喋りだしたら、始まりとみなしますので、事前のせまっくるしくスズメほど脳みそをフルに回転させて考えておくように。これから一切の発言は質問にカウントされる。私への問いかけも、質問ということでよろしくどうぞ。さあ、盛り上がってまいりましたあ、本日二度目のイベント。彼女は果たして、倉田正二郎たち、総勢二百人から接触した本物を見つけ出せるのでしょうか。なお、制限時間は五分と決まっておりまして、既に時計の針は動いてるものと捉えてくださいませ、はい。なんともうら若き少女が、お坊ちゃまに会おうとそれはそれは純真無垢で一途な想いをこれでもかとしたたかさを隠しつつ、なんともはや人目会ってっ直接に伝えたいとは、ずいぶん前の時代、私にとっては四半世紀以上も前のもう歴史といえる遡った一時期ですわ。渋い、苦い表情、柔和には遠く及ばない、眉間皺は今のうちからその癖をやめてしまいなさい、年長者からの忠告ですよ、ほほほ。おう!?行くか、踏み出すか、三回中一回を使うのですよ?親切心です、あれ?今キクラ・ミツキ産を擁護した方は執事の倉田正二郎さんでは?ああっつ、残念。数々の正二郎さんたちよって、雑踏にまぎれてしまった、本人らしき人物のヒントー。いいのか、いうのか、何々?一度に、三つの質問を?どうぞどうぞ、ただし前の質問に対する質問の成否は答えられませんことをご了承の上で、よろしいですか。それでは、さあ、椅子の上に立って、何たる礼儀の正しさ、靴を抜いているではありませんかあああ。初めてであります、親御さんの教育の賜物か、本人の特性か、はたまた神のご加護か……。よろしいですかな、最初の質問を聞きましょう。どうぞ」