コンテナガレージ

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ただただ呆然、つぎつぎ唖然 4

「あなたの特性を聞かせてもらいます」氷の息が吹きかかったみたいだ。頭ひとつ、私よりも背が高い。三メートルほどの距離が詰まる。視界の隅で執事の行き先を追ったが、どこにもいない。振り返る。やっぱり姿が消えている。常識が通用しないことはわかっているさ。トランスポートの出入り口が隠されているのかも。
「二人の行方を知りたいのでしょう?」先を見越した、動揺を誘う言い方。女性は私の脇をすり抜ける。空席に座った。
 執事が用意したティーセットが消えている。もしかして。彼女は、テーブル脇の台車を確認をした。ない。どうなっている、手品か。
「私ね、あの人の婚約者なのよ。結婚式は挙げないつもり。だって祝いの席は見世物みたいで、吐き気がしない?」魚眼レンズを覗いたみたい。女性は、肩のラインと平行に私の足首から見上げる、そんな視線だった。
 要求には応じたいけど、椅子は一脚しか、とミツキがテーブルの対面を見て、驚きを最小限に抑えた。
「見逃していたお前の責任だ。椅子は、お前がこの部屋に足を踏み入れる何年も前から二脚あった。騙して得をするのか、私がか?いいから座れ、お前と会話を頼まれた、そうお前が望む相手からだよ、まったく」
 男性的で強権的な口調に切り替わる、女性はサリー・笠松と私に名乗った。対面の席に座る途中にである。サリー・笠松の右半身を覆うワンピースの黒が喋っているみたい……。
「婚約者の私を前に、堂々あの人に会いたい、といえますか?」今度は丸みを帯びた言葉をサリーは吐いた、左半身の白が話す。戸惑った、視線はあちらこちらへ、両手も落ち着かず太ももの鍵盤をむやみに叩く。
 これは試験、ミツキは判断に困った。もしそうなら、クリアしなくては。手のひらで転がされていても、あの人だったら、私の真実に目覚めたこの私を掬い取ってくれるかもしれないんだから、彼女は真一門に口を、結んだ。はっきり首を縦に振ってやった、見ていろ。
「好きな対象物を意地でも手に入れる強欲さ、親がこぞってお前の所業を褒め称えたんだろうさ、曇った眼球で親の目線でなあ。所有物の奪取か……、お前の構成要素は何だ、たんぱく質かビタミンかコラーゲンかミネラルかお菓子か炭酸飲料かプロテインか、代償が引っ付いてるだろう、対価ともいえるか、お前を保つ要素を奪い取って成立する、これがお前だ。知らなかったとは言わせない、無意識に摂取していた、これまでは良かった、だから。ふん、おかしすぎて高笑いも無益だって噴出をとどまった。制約を背負って、私をいつもみっちり感じながら、あの人をそれでも得たいのか、お前は?」
 顔面、左側がしゃべっていた。