コンテナガレージ

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白い封筒とカラフルな便箋

立ち止まってしばらく考え込んだらしい。アイラは自分を他人事のように思い、扱う。

 背負ったギターケースのベルトを、片側だけ下ろした。

 自宅や外の喧騒よりもこの空間はたんたんとして、優れた居心地。彼女はギターを、いつものスタンドにて立てかけた。

それから並ぶ二組のソファを横切り、出入り口に引き返す。アンティーク調、こげ茶色のキャビネットの前に立ち、コーヒーメーカーにスイッチを入れた。

 眠かったのか、それとも情報の整理に休息が必要だったのか、ソファで三十分ほど眠りに落ちた。

 意識は外的な要因が引き金、半ば強制的に破裂音に似た音声。母親に叩き起こされる登校時間の迫った誰かの心境が、状況と重なった。

「……おはようございます」アイラはかろうじてつぶやく。そうして記憶の片隅に追いやったコーヒーを求め、立ち上がった。

眠りを妨げた張本人は、ペルシャ絨毯の幾何学模様に肩膝をつき、片手はソファの肘掛にかかる。城に仕える家来の姿で視野角のなかへ登場した。

 アイラは、マネジャーとテーブルを飛び越える。かろうじてローテーブルが上部の空間、導線を確保されていた。

「取材が殺到してます、どうしたものか。八方塞り、僕の手では負えません、どれか一つでもいいので、受けてください」悲鳴、悲観と窮状の訴え。カワニは、淡々と言葉を発した。まるで感情を置き忘れてきたかのような言い方である。

来客用のカップを一つ手に取る。薄い布巾を、トレーに置かれたカップたちに掛け直す。「愚痴、ですか?」アイラはコーヒーを注いで言う。カワニの分も。

 仕事を共にするミュージシャンたちは、ほとんどがコーヒー党で、ここには関係者も詰め掛ける。かなりの頻度で。紙のカップは去年に廃止された。ビルの経営者が代わり、消耗品の管理に細かな変更点を加えたらしい。一階の掲示板にそれとなく変更が示されて、ブース内の備品の一切が一夜にして状態を変えた。利用者の意志如何を問わずだった。