コンテナガレージ

コンテナガレージ

仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

白い封筒とカラフルな便箋

 敬礼、振る舞いは軍人にみえた、アイラはもちろん軍人に会ったことはない。

「おめでとう」

 カワニは何度も瞬きをこれでもかとばっさばさ、羽ばたいてしまうぐらいに風を巻き起こしかねない。「あっとぉ、本当にアイラさん……ですか、僕の聞き間違えだったら、飛行機の乗りすぎで耳がおかしくなったのかなあ」

「初めて他人を祝ってみたくなった、心境の変化はそれほどに人に襲い掛かる。事件も犯人にも等しく訪れます」

「もしかして、話しを掏り替えてますか、アイラさん?」

「投げかけて私のペースが崩された、したがって私があなたの足場を一度崩しても、天罰は回避される。それに、私はあなたへ祝辞を述べた、あなたは私への要求だったのにね」彼女は軽く首を傾けた、不適な微笑。

 その仕草を見てカワニは首を落した。マジックでそういったトリックを見たことがあったと、思い出す。

「……アイラさん、駄々をこねないください」自らの非を認めた上で彼は再び交渉の場に立つ。「僕だって、必死でそりゃあ、止めましたよ、受け答えはアイラさんのイメージを崩すだけだって。何でまた僕らなんでしょう、はあ、ツアー先の九州で事件に巻き込まれるかな普通。お払い、効かなかったのかな」

 アイラは聞き流してカップを手に取った。適温にコーヒーが冷めた、二口分を一口にまとめる。うん、上出来。今日は水の分量を少し減らした、これが功を奏したのだろう。何事も試してみなくては、彼女はそっと顎を引く。対照群と比較するため、日々の膨大なデータを集め、やっとのことで説明可能な現象が姿を見せる、推考と現実は似ても似つかない。ただ、双子を思わせる外面の酷似は多分に散見されている。

「やっぱりそうですか、アイラさんが同感ってことは、今年も厄払いに行ったほうがいいんだな、うん」腕を組んだカワニは私の動きを誤って解釈したようだ、放置、いずれ静まる、と彼女は内部に囁く。アイラはカップの底に手を添えて、慎ましやかにコーヒーを傾けた。

 静かな早朝の、無音に近い空気がひたひたと流れる。

 ちらり、カワニが盗み見た。視線が交錯した、訴える眼差し、片目がかすかに閉じかかる。まったく。

「わたしにどうしろと?」きいた。

「受けてくれますか?」弾んだ即座の返答。

「要望を聞き入れるだけ、先を急ぎすぎてます」

「はい、いやあ、まさか今日はだって、きつうく、一蹴されるものばかりに思ってたので、はあ、なんだか肩の荷が下りた」

「始まってもいないのに、相変わらずですね」

「そうですか、そうですよね、」照れ笑い、照れ隠しのカワニ。どちらかといえば貶したのに、鈍感さというのもやはり現実を生きるうえでは欠かせない装備品なのかも、アイラはしみじみとマネジメントを任せた年上の人物を見上げた。不当に突きつける一方的な振る舞い。不本意だ、大いに 内部が拒否反応を示している。カラータイマーは点滅、時間制限ではなく、警告、危険を呼びかける赤色。

「気が変わらないうちに、幾つか提案をさせてもらいます」いそいそ彼は足元に傾いて底鋲を見せつけ寝転がる黒の銀行鞄を手に取った。三色の付箋が貼られた、三枚の用紙がテーブルに並んだ。彼は解説を先ほどまでの口ごもる人をよそへ隠して、それはそれは流暢に弁舌が立った。騙されたのかもしれないな、アイラはしかし反論を押し殺して、聞き入った。「一つは、ラジオの収録。公開収録や生放送ではありません、収録スタイルで出演時間は五分。夕方の二時間番組の中で差し流します。質問項目の事前通知はなし、九州ツアーについて、これが大まかな収録内容となっています」

「ライブにかこつけて、事件を聞き出す算段」

「おそらく間違いないでしょう。ですが、手を打ってあります、こちらのチェックが厳正に行われる手はずは整えていますからね」