コンテナガレージ

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仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

白い封筒とカラフルな便箋

ブースを先に出た彼はドアを押さえて、三つ目の書類内容を再確認、内容説明を告げた。

「これがもっとも受けいれてもらえるのではないでしょうかね。ライブツアーのことには一切触れません、と先方から言ってくれました。海外のメディア、僕は正直知りませんでしたけれど、老舗の音楽雑誌「プラセボ」が直々に取材を申し出て巻頭を飾る準備はできているって、そりゃあもうね、アポなしでここに来ようとしてましたから」

「実際に会ったような口ぶりですね」

 消音、打ち消された静けさの廊下、寒さも無音を後押し、しかも早朝という時間は音楽界ではまだまだ深夜に匹敵する深い眠りの真っ只中。

 短くそろう灰色の絨毯をさわさわと。二人は、ドアを出て左。突き当たりのエレベーターとは反対側にある個室に居場所を移した。

 途切れたカワニへの質問から会話が再開する。

 彼は非喫煙者。そのため、私とは1メートルほどの距離を開ける。

 喫煙ルームにしては珍しい作り。長期滞在を検討に上げた設計なのか、過去のオープンな配置をそのままに、仕切りの透明な壁を囲ったのかは、定かではない。アイラが訪れたとき既に設置されていた。光沢のある黒の椅子に腰を下ろす。カップは置き場所がないため、左手が責任を持って落下から、液体の身を守る。

「そうそう、ほんとはアポ無しでアイラさんに会いに行こうとしていたらしいんです。事務所に雑誌社御一行様がアメリカから突然やってきて、もう英語は聞き取れないわ、テンションは高いわでてんやわんや」

「彼らに課した制約は?」

「特にありません。だって、海外で日本の事件に関わったことを伝えるだろうかって、社長が言い切るもんだから、それは僕だって、そんな顔しないでくださいよ、止めました。しかしですね、頑なに意見を押し通す社長には……はい、逆らえません。よく考えてもみてください、僕に意見を覆す権利があると思いますかぁ?」

「卑下しても同情はしない、仮にも私のマネジメントを請け負うのですから」

「海外ですよ?心配は……、いらないとは思います、たぶん、おそらく、確実に」

「インタビューですか?」不要な皺を作るカワニにアイラは尋ねた、煙を太ももに吐き出す。雲海を瞬間に作り出して、それからは霧散、集煙機能の空調が稼働を始めたらしい、据え置きの灰皿が生きてるかのように唸った。彼女は見つめたまま、カワニの意見をきく。

「そうではなくって、実に突飛な申し出で少々戸惑うかもわかりませんが……」歯切れが悪い。

「言ってください」

「セッションです。海外のミュージシャンと一組、顔を合わせ、決められた時間内の曲を言葉のやり取り無しに、音のみで行う、という斬新な企画です」

「へえ、面白そう。喋らなくていいのよね?」

「いやあ、それは挨拶ぐらいは言うべきですし、礼儀として相手の素性を少しは抑えておかないと怒って帰ってしまいかねない、はたまた……」アイラは遮った。

「私は渡航する気はさらさらない。海外からセッションの相手が来日する。そうやすやすとへそを曲げて帰れる状況とはいえないのでは?」

「うう、そう正論でこられると、言い返せませんね」彼は思い出した仕草で、指を立てた。「ああ、あとアイラさんのファンだっていう情報は事前に知らせてくれました、フランクさんが。ああ、フランクさんというは『プラセボ』の編集長です」

「日本人を起用する、随分暇な雑誌。まあ、長と名のつく人物は緊急時に能力を問われるものだから、交渉に長けたベテランが口をついた偽善というのが妥当な見方ですかね」

「来日して、嘘をついてまで、仕事を取り付けるでしょうか。いえ、そのアイラさんをことを」

「何もいってません」

 カワニは念を押す、神妙な顔つき、成否を求める仕様だった。「三つのうちのどれかを選んでください」

「事件を蒸し返す危険性はどれも少ないということ……」アイラは煙を平行に吐いた。とぐろを巻く感情が一目盛り軽減しただろうか、気分はしかし晴れやかとは言い難い。曇り空が通常だったら雨が降らなければ、喜べる、つまりは平常時の認識度合いに起因してしまう、はあ、しょうがない、彼女は頷いた。「いいでしょう、受けます」

「はい、そうですよ、ええ、ええ、当然断りますよね。ううん!?受ける、受けるって今おっしゃいました?」

 弾んだ声、顔が近い、間の椅子を支点にカワニの上半身が伸びた。