コンテナガレージ

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白い封筒とカラフルな便箋

「僕を見くびってましたね。なんと、驚くなかれ、実は生放送の一週間前から放送予定日と時間をずーっと二十四時間サイト内のトップページで告知してくれるって言うんです。やるときゃやりますでしょう、僕も」

「そう」

「あれっ?なんか、こうよくやったとか、カワニにしては上出来じゃないかって、言われる姿が……はかない想像でしたね」一人で舞い上がり、一人で納得、力なく彼は対面左の椅子にお尻を接地させた。煙越し、彼がうなだれる。

 褒めて欲しい……か。

 また、先月の事件が浮上する。こぼれて、拾い集めるように訴えかける。

 整理し切れていないのかもしれないな、彼女は思う。夢が現実の整理に一役買う、その手法に従ってみるか、新曲の予定は再来月の末日、時間は十分にあるのだし……、アイラは簡単なカレンダーを目の前に思い浮かべた。

 今日は十一月第一週の水曜、土曜に定期ライブの公演が控える、その次のライブは再来週。演目は心境を支配的に暗躍して止まない事件と連動していた九州ツアーの初日のセットリストの再演。そうして第二段階の統計を取る、これが土曜の目的。離れた場所に居を構えるファンの反応と常時ライブを見に訪れるファンの居住まい、距離感、受け取り方、反応速度、ファン同士の交流による心境の変化、異質と日常の違い、これらがやっと土曜と再来週に明らかとなるの。

「試されているファンの気持ちになって欲しい」、と事務所兼レーベルのアイラ・クズミという歌手のストーリーを構築したがる裏方の人物たちとは意見の相違ばかり。

 何もわかっていない。

 神格化?

 馬鹿げている。トップシーンなどという幻想は、世の中の不安定さにすがりたいがため、一時の陶酔に溺れたいがための、つまりは現実逃避。現在は実にしっかり、全世代の失敗をあからさまに身に受けた世代を目を凝らして見つめるがいい、彼らは足もとを確かめて石橋を渡っている。ゴムで覆う木槌で丁寧に一ミリずつ、それこそ、底が抜け落ちないように。