コンテナガレージ

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至深な深紫、実態は浅膚 1

ふらり、突き当りに到着する、きびすを返した。殺風景でありつつも厳かな雰囲気は、取り入れる様式が確立された概念であって、しかし体得そのままに造形物の構築にあてるのでなく、備わった日本式の素養を絡ませた、とアイラは感じ取った。

 窓が悠々背丈を越える大型のフランス窓は両開き式、ただしガラス面は四面あり、中央の扉の二面だけが開き、両サイドの窓は足元から四十センチをコンクリート壁、そこから上部へ中央と同様の窓が始まる。緑がかった白い枠が頑丈に護る。ただ、天井辺りでもうひと枠の格子が設けてある、ガラス強度の面を補ったとみえる。

「観客はせいぜい百五十が限界、ぎっちり詰めると数十人の追加は可能でしょう。初めての場所ですし、ここはライブ会場を開催するような場所ではないので、その辺はご理解ください」、というカワニの投げかけはつるんと彼女の耳を掠めた。

 その後、昼食を兼ねた打ち合わせは音響設備の担当者を交えて行われた、彼らスタッフの総勢は五人だった。会場設営のスタッフはこれに含まない。特定の可聴域にひどいハウリングを認めた、音響スタッフ側の報告である。周波数帯に均一な音圧を含むノイズを発生させ、減衰と増幅の微調整を行うようだ。なんでもグラフにあらわす人の可聴域と音圧の関係はなだらかに傾斜しているらしく、また一定の低い音域を不得意とする。専門用語は忘れてしまった、覚えてはいるが、その言葉を使えば使いほど、内容との隔絶が見込める、そんな気がして彼女は使用を拒む。

 午後にギター、演奏予定の曲中における歌声の最大音を発する。

 会場の歓声や反響した数秒前の音声と口をついた直前の自製音の区別に、モニター用のスピーカーを流れる音の割合をエンジニアと確かめる。エンジニアの一人はライブ開始時刻の予想される気温と天候を考慮に、室温、湿度のチェックを入念に行う。開場の直前にも、最終チェックを行う予定である。

 午後十時に明日の再度のリハーサルを残し、その日は解散、ホテルで早々アイラは眠りに落ちた。