コンテナガレージ

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至深な深紫、実態は浅膚 1

翌金曜日、うす曇と局所的に空が覗く空模様。

 普段と代わり映えしない白いシャツと灰色のパーカーと薄く淡いジーンズ姿で音合わせに、アイラが挑む。望むという言い方は避けた、あくまでも公表してる通りこれは実験なのだ。誰がどう思うか、反響の度合い、返りの速度を身をもって体感し、新曲に落としこむ作戦。二年ほど先を見据えた取り組み、聞き手を見下す手法だとも言われそうだが、気にするものか。私は私を活かすために歌を歌う、歌いたいのだ、歌い続けるのが目的、見失い、要求に特化した仕事と銘打った歌を歌う私など、想像しただけで吐き気がする。それは死んだも同然。骸はいやだ、だったら、そう、おのずと道は開けるだろう。けれど、ええ、悪路には違いない。しかし、見ていろ。いいや、見なくていい、見限ってもいい、見下しても、見落としても、見比べたっていい、結局私に還り、足跡を追うならば……。

 道は残しておいてやる。眺めがいいだろうさ、当然だ、私が切り開いたのだから。

 必死?私が?冗談はよして欲しい、楽しいのだ、うれしいのだ、やるべきことが改善策がたんまりと目の前にずらっと山積してる、これをこなす。しかし、先の先は見据えてる、じっと透過させて、これまでとこれからをまぜこぜにすれば、おのずと予定は埋まるのだ。

 演奏中にいろいろと考えるものだ、散漫な意識に何かと主導権を奪われる。ここには私と演奏にそれと歌がお客に届く場所である。

 汗が滴り落ちた、インターバルを設ける。パーカーは椅子の背もたれにかけておく。目張りした低位置に戻った。

 じっくり、気配を探る、音に依存し声を抑制、しばらく距離を置き、次に歌詞に寄り添い、それから選んだ曲目に堕ちる。

 二パターン目のセットリストを、消化した。

 エンジニアは通常の公演を二回、それを一度に集めた負担を背負う。中身を隠した箱の中から手探りで曲を選び出し、私は歌う、イメージはこれに近い。エンジニアの対応速度が問われる、気が抜けない、けれど不必要に次曲のタイトルと演奏の間は余裕を与えて、取り組むつもりなのだ。優しさとは種類が異なる。

「コンクリートの吸音率がネックだなぁ、ふーん」テーブルに陣取る機材を中腰の姿勢でチーフエンジニアがアイラの正面でつぶやく、彼はアイラに問いかけるつもりは毛頭ない、独り言が大きいのだ。「床板の木材が唯一頼みの綱……、気持ち吸音性の高い音が残る素材、素材っと。……カワニさん、あれは用意できますか?内装に合わせた長さが必要になるんですけれどねぇ」

 アイラは、彼の改善箇所を復唱しながら管轄外の仕事と潔く割り切り、任せ、一人ぶつぶつと記念館を出た。遠くへ行くな、というカワニには手を上げて応えた。立ち入り禁止の柵を乗り越えたファンの襲来を懸念しての発言、と対照的に彼女は事態を楽観的に捉える。