コンテナガレージ

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至深な深紫、実態は浅膚 3

 土曜日、午後二時開演のライブ。

 演奏中にステージ袖で見切れる、マネージャーのカワニの表情は綻びっぱなしであった。最後の曲目(既にアンコールに入った)では、熱気に満ち溢れる記念館をアイラ・クズミは一人その中で、いや、一度照明の角度調節に姿をみせたスタッフと盛り上がりの境地に取り込まれず、冷静に異空間を全うした。てらてら、くねくね、角度によって跳ね返る光の模様たちは、本番の三時間前に記念館側面の壁が厚手の毛布で覆われる。片側二箇所、計四箇所の隙間が柱のように二階の回廊に延びていた。

 音の反射率と残響音の落としどころを見つけ出したのか、彼女は振り返る。

 ホール内から直接、一階の控え室へは観客の間を通る必要があった。

 そのため、機材の搬入に使う窓から屋外に出て、表玄関口を廻り、彼女は階段右手の控え室に戻らなくてはならなかった。敷地内への侵入はチケットの所持が求められる、急ぐ必要はそれほどなかった。それでも、観客を詰めすぎたホール内の広さだった。

 気を使ったのだ。

 一目、姿を見つつ、音を捉えたかった奴を無遠慮に切り離し、遠ざかってくれても私は平気、他人との肌を触れ合うことが目的とはおよそ考えてはいないのだ。それにチケットは一人一枚の入手に限る販売方法の採用を、事務所側に頼んだ。彼女のライブにおいて気の知れた友達と連れ添って会場に足を運ぶお客は数が知れているだろうし、友人に付き合わされた来場と願った来場とは比べようもなく後者に軍配が上がる。私なりの配慮。

 アイラは、タオルで汗を拭った。白地に紫色の印字が目に鮮やか、これはツアーグッズとして売り出されるらしい。

 入り口正面の真っ白な階段裏のスペース、折りたたみの長机にずらっと並べられた商品たちを、会場入りしてまもなく、手に入れた。グッズ販売員の四名が事務所から借り出されて応援に駆けつけたらしい。カワニから紹介を受けたはずだが、一行の名前が頭を掠める。アイラの性格的思考は相変わらず不変、同年代か、わずかに上という認識が浮かんだぐらいで、特段意識に上げることもないと、判断を下していた。

 椅子に腰掛けては、天井と意思疎通を量る、視界はタオルで遮った。

 お客の反応を精査してみようか。

 カワニが呼びかけている。

 けれど、手を上げて、制した。もう少し時間を置いてから話に耳を傾けるからと。