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至深な深紫、実態は浅膚 3 

 会場の雰囲気を読み取る感覚は以前に増して、感度が高まったように思う。探りを入れる前半の走り出しは低空で飛び出し、中盤から後半に多用する音の高鳴りに合わせお客の盛り上がりを上手く乗せた、と自負する。

 自慢げに聞こえるだろうか、人はそうやって見過ごしてしまう。正確に物事のあらまし、状況、実態を把握してるつもりが、何故かおごりや高ぶりに思えるそうだ。まあ、どうだっていい。お客の割合、男女比率を計測する、あくまでこれは私の取り入れた視覚情報から算出される不正確なデータ。また、それとは別にお客には無理を承知で初の試みとなるアンケート用紙なるものへの記入をお願いした。ただし、私は今後の曲作りの参考に大いに活用するため、と手の内は明かしていた、フェアでありたいから、無論カワニには止められた。けれど、敢行した。いつも対置にいるのだ、私たちは。

 気にかかった点が複数浮かぶ。女性の比率が高く、目を閉じた観客が多いことも顕著な観測結果である。これはアンケート用紙の正確な男女比率では引き出せない、現場に携わった人物、ステージに立つ者の視点から得られる特異な観測結果。……データ音源・CD曲との精査を摂っているのだろうか、彼女らにとって音は整う完璧な歪みのない、クリアでありつつ、鮮明な歌声、それがデフォルトなのかも。

 今後の課題だな、アイラはかけたタオルに顔をこすりつけた。ライブと連動した音作りがもしかすると、理想の最終形態なのだろうか……、今後検証するべき課題が一つ加算された。

 手探りでストローつきのペットボトルを手にする。口紅を塗らない私にあてがわれた不要なストロー。リップという化粧品は、メイクを施されたときにつけられたと思う、色は無色透明だった。

 戦闘の意思や感情の高まり、呪術のための準備でもないの。見られたく、右に左に倣っているだけ。肌にやさしく、取り除く手間を感じつつも、毎日の塗布と剥離を繰り返す。

 晒してしまえばいい。いつもを見せていれば、それが自身の認識に変わる。

 怖い、恐ろしい、考えもしないこと。できるか、そんなこと。

 外側を磨くほど、内が汚れていくのに?

 いつもの服を、いつもの顔を、いつもの人を見せればいい。

 平静でいられる。