コンテナガレージ

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至深な深紫、実態は浅膚 6

 警察の執拗な取り調べを覚悟したアイラとマネジャーのカワニであったが、翌日、正しくは阿倍記念館からホテルに戻った当日のチェックイン後のロビーにて、警察は移動先のホテルと連絡先を聞くと、見事なまでに待機命令は下されず、出発は予定通りに遂行された。週三日の開催予定を果たすべく次の会場先へ、アイラたちは移動をした。バンによる輸送は、カワニに届く事件の続報をいやでも耳に入れてしまう。だが、アイラは一応表向き、一度だけ彼の破裂しそうな胸中に手を差し伸べてあげた。もちろん、不本意である。

 次のような事実をカワニはよく聞いてくれましたとばかりに切々と述べた。

 阿倍記念館一階ホールは完璧な錠が施されていた。鑑識が顔を覗かせた二階は回廊式の通路がぐるりと渡ってあり、一階正面口を入って登場する幅広の階段を上る経路が二階へのルートである。また、二階は玄関と階段の真上にもスペースが設けてあって、表から見上げた重たい赤と青の紋様の真後ろに一脚のベンチが置かれる(紋様の窓は填め殺し)。鑑識が調べた二階の回廊の窓を飛び降りる逃走経路は、管理人の証言が打ち消した。というのは、管理人が駆け込み通報した電話は事件当日、アイラの控え室にあてがわれた部屋のドアの壁際、照明のスイッチに並ぶ位置にある。ドアは開けっ放しの状態で、一階の様子を伺いつつ、いつでもドアを閉められる準備、つまり襲ってきたときの対処のために、ドアを支え、非常口を示す淡い緑の明かりを頼りに彼は、通路と二階に続く階段を震えながら凝視していた。なお、階段を挟むもう片方の一階の部屋ついては、こちらの施錠も管理人がホールを覗く前に確認済みであり、ホールと階段それから左右の部屋に通じる導線に犯人が管理人の動きを察して上手に隠れていた可能性の指摘は否定される、なぜなら管理人は警察が来るまではじっと廊下と階段を見張って、ホールへ死体の状況を再び確かめる行為は控えた。つまり、犯人はホール内を一階及び二階の窓を通じて逃走した状況が可能性として残る。ちなみに、二階の窓は鑑識の調べで発覚した事実によると、近時の一週間に開けられた形跡は確認できない、という。

 カワニは喉の渇きをペットボトルのお茶で潤したと思うと、私に長々語った感想を尋ねた。

 アイラは仕方なく、返答をした。

「そうですか」

「一言で終わり、ですか?」不満げなカワニの声、一列後ろの座席に彼は座るので表情は窺えない。

「ライブの途中ならまだしも、閉演の後始末の段階、それもかつて過ごした演奏会場、これが私の捉えた記念館の現在の印象です。責任能力を問うつもりの警察は、死体が残した手紙と会場を借りた、数時間前まで使用した私たちに対しての微かな糸口を見出したい。取り合う必要は一ミリたりとてない。それとも私が犯行に及んだ、そう思われてるのですか?」カワニを微笑を添えて見つめた。効果的な動作を利用させてもらう、狡猾さはたまの活用に限るから味方する。毎度であれば通常に成り下がってしまい、驚きは半減するのだ。