コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

至深な深紫、実態は浅膚 6

「疑ってなんて、滅相もない。物理的にホテルとの往復は難しい、アイラさんの意見は正しいと思います。……ただですね」

「ただ、なんです?」

「マスコミにどの程度の情報公開に踏み切ったらいいものか、警察の動きによりましては、そのぅ月曜日の公演は、考えたくはないのですが、最悪、延期という事態も受け止めなくてはなりません」神妙なカワニの面持ち、いつも彼の顔は若干怯えたようにみえる。

 ライブ会場の規模は極小、大人数を収容する通常のコンサート会場とは正反対の、本来の建物の使用用途に演奏は含まれていない施設・会場をアイラは希望していた。彼女は会場の正体を到着によって知らされ、知れる。場所の選定はカワニと事務所スタッフに一任していた。特に、こだわる意味が見出せなかったし、一ヶ月弱の期間内のオーガナイズに適う会場が、極端に少ないことを見越した無理なスタッフたちへの発注だった。これは狙い通りなのだ。不適当な場所は地理的に悪く、交通の便は手段とそれに時間が限られる。訪れるお客に一種の期待感を芽生えさせ、植え付ける。知名度の低い会場選択が当日の経路を無心にただ、ライブを見たいがために熱中してしまう近視眼的に領域の狭い視野を付与され、ようやく、ライブ当日の道のりや復路、数日後に振り返って、大きな会場とは無縁だった会場の選定、意味を思い思いに解釈する、これが彼女の予測だ。

 アイラは、端的に応えた。

「しかし、中止に伴う費用や労力の補償を警察は請け負わない、その事実を前面に押し出して、ライブの開催は乗り切れる」

「まあ、表面的には成立するように私も思ってはいますが、いかんせん、そのう、事故ではなく、殺人の可能性が含まれているのが、ネックなのですよ、はい」躍動する眉の動き、それと連動した瞬きは困惑する彼の心象を的確に見せつけている。対面する者にあえて知らせて、相手側の行動変化を促してるようにさえ、思えた。アイラは右手の窓に首をねじった、そもそも体は正面を向き、左足を右腿に乗せていた、きつい体勢から本来顔が向くべき位置に戻しただけのことだ。もちろん、不毛な会話を嫌った態度も否定はしない。

 それからしばらく、一定のノイズが取って代わった。

 カワニは車内の主導権を握った沈黙に耐えかねて、数十分後、声を発した。