コンテナガレージ

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至深な深紫、実態は浅膚 6

「ホールの窓を通り抜けた、当日の会場にいた関係者すべてを警察は調べてます。ついさっき、会場設営を依頼した地元の業者から連絡を受けたんですよ、はい」

「現場に呼び出されたときに窓からの出入りと細工の可能性の有無は証明した、と私は把握してます。これ以上詮索や訪問がもたらす時間の搾取が執り行われる、あるいは強制的に警察の権限を行使しようと目論むのであるなら、それなりの対処をカワニさん、あなたにとっていただく用意をお願いしたい。私はなによりライブが目的です。暇そうに映る移動時間や休憩もすべてライブの演出に含まれてます」

「わかってますよそれは、ちゃんと考えてますって。ツアー期間内のプライベートな時間はきっちり守るつもりです、はい。ですが、もしも、ということもありえます、そのときは私に免じて何とか受け答えの時間を作っていただくわけには……、いきませんかね?」

 バックミラーにカワニが移る、彼は身を乗り出して私が持たれるシートに手をかけた。アイラは思い出す。二階の窓から乗り出した鑑識はあそこから何を調べていたのだろうか。

 当然、二階が侵入経路に使用された可能性は検証するだろう。自力でホールから回廊に登れたとしたら、またはロープなり縄梯子なりを周到に用意、持参し殺害後窓から出られたならば、密室の完成は残る二階窓の施錠に注目が集まるのか……。しかし、開閉の形跡は否定されたし、窓の施錠は一階、二階ともに完璧な状態であったという警察の報告。最も疑わしい管理人への聴取が攻め手のように思える、アイラは警察の訪問を返り討ちに、よりもっと自分を差し置いて調べる対象の示唆を保管、瑣末な考えを脳内にしまった。

 車が行過ぎ、追い越される。ずっと左車線だった。高速道路を走行、左右は森に囲まれた道。いいや、森に道を人が作ったのだ。背後で告げるカワニの問いかけを聞き流す。

 不断の走行音が実に心地よく、時折訪れる上下動にアイラは身を任せ、流れる車窓に現を抜かしつつ閉じた瞼で、マネージャーの口から漏れる問いかけと別れた。