コンテナガレージ

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本心は朧、実態は青緑 1

 翌日。月曜日。

 滞りなく作業、主に歌声とギターの響き、音の返りに関するチェックは午前の段階、雨が降り出す雨空のうちに幕を閉じた。湿度が高まるとくぐもった音が現れやすい、湿り気は楽器には特に大敵、雨か晴れは大歓迎で曇りは多少憂鬱だろうか、仕方なく天気予報に目を通してみる。賛美歌とオルガンの演奏にある程度適した音響空間に、エンジニアたちの先週味わった対処と似ても似つかない、額の皺が減っていた。

 ギターは、昨日の到着時点で教会にいち早く到着しており、出発が公演の直後、機材の搬出と同時刻に記念館を発ったのだから、アイラたちより先気に到着しているのは当然である。音質や弦の調節は完了済みであった。音は変わるもの、それは私よりも職人の感度に任せる。対抗する意味もなければ、私なりの意見は不要と捉える。なぜなら、職人は音のみを聞き、私はそこへ歌を添える。二つの協和を聞き取るには、もう一人私が存在しなくては。ちなみに、職人と顔を合わせない、という仕組みは私が提案した取り組み。伝達事項があれば、用紙なりメールなりで伝えてもらう。相手の意図を汲み取る作業は一人の方が格段に意識の抽出に適した環境だろう、これは彼女独自の判断手法、よって万人に不適当な作業対応といえる。まねをしたくても、覚悟を決めなくては私の仕事環境を構築するのは難しいだろう。これでも割と妥協してるところもあるのだ。カワニの顔を立てて、警察の指示に従ったのだ、いつもなら、法的拘束力の根拠を叩き起こされたホテルの部屋で提示するよう申し出た。寝起きでもそれぐらいの防衛反応は働く。

 明日に備え、昼食をもって、リハーサルはお開きとなった。昨日と同じレストランである。昨日よりも十分ほど長い滞在時間だった。私の印象はあっという間。全員の料理がそろってから食べ始める理屈に私は一人、抗って提供の早そうなカレーの大盛りを頼み、予測どおり一番にテーブルに運ばれ、手をつけた。視線を感じたが、食べ進めたアイラである。

 事務所から駆けつけたスタッフとカワニ、スタイリストが先に店を出た。席を立った一同を尻目に、テーブル脇に立つ、帰り際のカワニはまっすぐ私にホテルに帰って欲しい、そう言いたげだった。表情は見ないでもわかる、が取り合うべき要求とは思えない。

 あえて無視をした。

 二杯目の食後のコーヒーを注文し、併設する駐車場、降り出した雨を見つめて時間をつぶしたアイラである。