コンテナガレージ

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本心は朧、実態は青緑 4

 莫大な金額に当たる信用情報が埋め込まれたカードで無形の信頼を理由に支払いが成立する。店側としては現金が良かったはずだ、来月まで入金は遅れてしまう。どうだっていい、無造作にカードをポケットにしまう。

 見送られ、店外へ。もうじき季節が変わる、南でもそれはひしひしとにじり寄っているのか、しみじみという感慨ではないだろう。見送り、お辞儀は所詮サービスの一役、私を目安にそれを行う自らを律する、またそれらの行動がその他の人物に見られ、店員に還る。彼のためなのだ、そこに金銭が発生している限りは。

 歩くことはやめた、また心配をかける、それに道は覚えてない、直線を選んだつもりだったけれど、私は方角に弱いらしい、いわゆる方向音痴。タクシーを捕まえる。東京でも利用は控える、移動時間の目安は皆ついているのか、といつも利用者を不思議に思うんだ。

 オレンジ色の車体にホテル名を告げる。無駄な話はまだ続いてるだろう、仕事だからという言い訳は聞き飽きた、彼らを切り捨てたアイラ。無駄な会話が仕事につながるのか、そうやって遊びを仕事に置き換えているつもりだったら、いっそのこと遊んでいます、そう明言してしまえばいい。片足を仕事に本心の遊びの姿を隠すのは、気に食わないし、いやらしいとも思う。

 私は真っ当だろうか、アイラは窓に映る顔に問いかけた。その問いこそが、真っ当である印。

 問い続ける、一人で、いつまでも、ギターと向き合って。

「お客さん、どっかで見た顔ですね、テレビに出てるんかな?」まじりっけのない声が前の運転席から聞こえた。今日まで誰にも聞かれなかった、目線では問いかけられてばかりいた質問である。運転手は私を知らない、だから知ろうとした。知っていて、声を掛けそびれて、躊躇ったのとは次元が異なる。ただ、不意に浮かんだのだ、疑問が。後部座席の女と記憶がおぼろげに一致を果たした、その声はとても正直に届く。

 アイラは応える。「テレビに出たことはあります、回数は少ないですが」

「ああ、やっぱりだ。あんた、歌い手さんじゃろ?」

「はい」

「綺麗な声をしとるわい。はああ、そうかそうか、どっかで聞いたと思ったら、なんだシンガーか、ふむふむ」

「声でわかりますか?」きいた。

「そりゃあ、何年もこの仕事をやっとるもんでな、顔を見なくたって、お客さんの態度はぜーんぶ声が教えてくれるもんさ。あんたは、穏やかだ。めったにそんな青い人はおらなんだ」

「青い?色ですか」

「凪とも違うんじゃ、湖の水面さ。深いから光が届かなくて青い」運転手はそこで声を上げた。「あー、しまった。道を間違えって、何をしとるんだ、わしは」