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本心は朧、実態は青緑 5

『考えを文字に起こす作業は不慣れ。ならば前置きを述べて、逃げ道を取る作戦だ。稚拙だと思うなら、正直に私の品定めを行え。けれど反論は手紙で、あなたの順番が廻るそのときに発揮して欲しい、願わなくともここでは取り越し苦労であるはずでしょう。とにかく、意見を述べる、心して聞くように。私が二番目の書き手である。一番目の意見はそれなりに共感部分を含む。少なくとも、目指す方角は一致していたでしょう、北北西か北西の微妙な違いという認識よ。詳細を語るわ。なんとも欲にまみれたアイラの体を目当てに、あいつはファンを名乗る、その不躾な態度を共通を認めた私と思ってもらっては困る。あれでファンと公言……神経を疑います。トップバッターはどうにかして、接触を夢見てる、あわよくば、その先に転がり込むしたたかな顛末だって毎晩夢で見続けている、たぶん部屋はアイラのポスターが埋め尽くして、しかもキスなんかしたり、等身大の抱き枕も自前で作ったり……あくまで想像だけど、八割方当ってんじゃないのかしらって思うの。つまり、一番目の思想は肉体が目当て、むさぼりたい欲の塊そのものよ。私は違う、もっと紳士な付き合いと距離感を保つ。羨望という土台は一緒、接触と待機の差。けれど、初めて私はコンサートで彼女を眺める機会に乗じた。そんな私は、私の理屈、理に反しているだろうか……、とことんまで悩んだ、悩みぬいた。結局、私も一番目の人と同類に思えてきた、思えてしまった、行き着く先は窄んで一まとまりに混ざったんだ、コンサートのチケットを勝ち取ってからの心境の変化よ。定期公演は移動距離を理由に、行動に踏み切る労力を控えた、といえる客観的な自己診断。今考えると、たぶん、ノンノン、明瞭に心象を言い表している、否定をできはしないんだ私は。そこで思ったの、本心は巧妙に理論武装されているんだとね、説明はできないけれど、本心は行動に現れない胸中で眠るのだ。そうよ、求めるアイラの実物、アイラの生の声、演奏、醸し出す雰囲気、息遣い、息そのもの、何もかも彼女が発するすべての物質を吸い込み留めて、私は所有物にしたい、この欲求が本心だったとやっと遅ればせながら気付いた。前の人とは違うわ、崇高な精神を本性はカモフラージュした。……恥ずかしい、思えば、前の人物がどれだけ正直であったか、数行前の意見なんて見ていられない。私は、ええ、どっちつかず、有能さを見つけたかったのよね……。さあさあ、独白みたいな文章が続いたので、気分を改めます(立ち上がると同時に踵を片方付いてバランス、ポーズを決める)。さて、私は今週の土曜日にアイラ・クズミのライブに足を運びます。欲の塊を身に落すためにです。切り離せませんでした、彼女が欲しいのです。これが正直な胸のうち、稚拙です、劣っています、だからっていけないことでしょうか?いいえ、誰も非難はしていない、私が勝手にせき止めたに過ぎない。考えすぎですよね、はい、認めたんですよ、私は、現在の私を。未来の、まだ身に落しきれていない、まばゆい神聖な立ち振る舞いの私を見限ってね』