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本心は朧、実態は青緑 7

 不破が応えた。「お答えする前に、まず皆さんの行動を再検討させてください。見落とした点や、思い込みによってついた虚言が含まれているかもしれませんし」

「あのう、私たちって、その、ここにいなくてはいけませんか?」事務所のスタッフ、ショートヘア、黒髪の女性が言った。

「楠井さんと向日さんでしたね、お二人にも、今からお話しする内容でご理解いただけると思います」口元に皺を作る。営業マンでも勤まりそうな、店舗を構える、そこへやってくるお客の対応に長けた不破。見方を変えると、不都合な印象を極力排斥したスマートな態度とも表現が可能か、アイラは詮索と分かれて、瞼を閉じる。

 不破が続ける。「思いがけず 倒れた死体を目撃したという者が名乗り出てくれました。右隣のマンションの住人です。家の掃除、トイレ掃除の際に開けた窓から不審な車が立ち去るのが見えた、という証言を得られました。時刻はアイラさんのライブが始まって一時間ほど経ったあたりです。ただ、死体の発見を告げた通報者はマンションの住人とは別の人物でした。駅前の公衆電話が発信源でしてね、同時刻の駅構内のカメラには映り込まない駅舎の外の電話から掛けたようです。タクシーの運転手、バスの運転手にロータリーで待機をしていた各乗務員の聞き込みは空振り。ちなみに、駅とこの教会は車で十分、徒歩だと一時間ほどの所要時間と思われます。そうそう、グッズ販売の会場は近くでしたね、教会から徒歩で五分ぐらいでしょうか。若干のズレは許容してもらって、目撃情報の時刻に皆さんがおられた場所を浚ってみたいと、こう思うわけです」

「議論の末に昇格した信憑性の高い目撃情報と私たちが各自、一目に終始晒されていた可能性を知った上での問いかけであること、それらを踏まえ、警察は証言を求めるのですか?」アイラが言った。目は閉じたままである。

「二つの事件に関連性が見られた、拘束の権利は十二分にあると、私は踏んでますが」不破は言葉を切る。「不服みたいですね」

「正確な死亡推定時刻に私たちが互いに、またはライブに関わる人間の目に触れていたのは、信憑性の域を超えた紛れもなく受け入れざるを得ない、純然たる事実、ではないのですか、お答えを」

「死亡推定時刻の報告はもう少しでもたらされます。ただ大よその判断では、死体は、少なくともライブの開催時に致命傷を背中に負った。また、生体反応が見られることから死亡後に刺されたのではありませんし、血液もまだ固まってはいなかった。つまり、これらを総合した判定では、教会の駐車場でナイフによって背中を刺され、息を引き取った、というふうに言えるでしょう」