コンテナガレージ

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本心は朧、実態は青緑 7

「目撃者は、犯人を見てはいないのですか?」アイラは目を開けてきく。

 付け加えるように土井が口元に手を当てて、内緒話を伝える仕草でしゃべる、忘れていたことを伝えたらしい。しかし、不破の一瞥が彼に飛んで、萎縮。体格に不釣合いな格好、でっぱるお腹に彼は手を組んだ。

「立ち去る車は目撃した、と主張してます」思い出したように不破は顔のパーツを広げた。「ああ、そうです、そうだ。偶然にも、その車はあなた方が借りるバンにそっくりだそうですよぉ」不破が言い切った。

 なるほど、彼の自信はこの証言が元になっているのか、とアイラは正体を掴む。そうして、興味は一気に冷めた。不確かな目撃情報、それもレンタカーのバンが似ているから、という信憑性の低い証言の採用と重視。どうしたら、そう安穏としていられるのか彼女には不思議でたまらない。警察に有能な人材が集まるわけでもないのかと、彼女は考えを巡らせて、刑事の単純な思考動機を許した。ただし、この場から早急に解放してくれるつもりであるならば。

「バンは裏の駐車場ではなくて、教会前のロータリー、建物を一周して戻ってくる側、正面から見ると右手に止めていました」カワニが記憶を探る、瞬きは明滅みたいに素早く降りては開く。

 ロータリーの経路は時計回りだ。親切に白線の矢印が描かれている。正面から見て左手から教会の側面を通って奥の駐車場へ行き着き、駐車場からも出入りの経路を間違えないための矢印が路面に見て取れた、アイラは瞬時に映像を呼び出す。暗がりの前、ちょうど死体を警察と共に発見したときの映像だ。ついでにアングルを変えみよう、彼女は器用に記憶を取り出し、それを自在に映像として扱える。圧縮された映像の拡大や死角部分の想起も、前後の記憶から彼女なりの映像処理を施してしまえる稀有な能力を有するのだ。無論、彼女自身誰にもこの機能はひけらかしてはいない、発見を恐れひた隠す。