コンテナガレージ

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本心は朧、実態は青緑 7

 むやみに無許可で溜まってしまう、忘れることができない、常に並列した記憶が堆積。私がおかれた生活状態がこれで少しは想像できただろう。

 人は誰しもが、皆すべてをこれまでを覚えているものだと思い込んだ時期が懐かしい……、アイラは教会に意識を戻した。

「目撃者はあなた方の借りる車両を思わせる、白いバンが走り去った、こう証言してくれました。いかがでしょうか、どなたかここらで正直に喋ってくれる方はいらっしゃいませんか?」不破は無鉄砲な挑発を始めた。しかし、誰も顔を見合わせるだけで、何も応えない。当然の行動だ、むやみに反論しようものなら、更に拘束時間が長引く、ひいては明日の仕事に差しさわりが生じる。懸命な仕事人であるならば、各自の体調管理は十二分に重要視されるべきだと認識しているはずである。現時点でイレギュラーな状況に足を踏み入れてしまった、もがくだけ体が沈むということをよく理解しているアイラのツアーライブに関わる一同である。

 不破は軽く舌打ちをした。挑発に乗らなかったのが気に食わない様子、ポケットに片方の手を入れ込む。あれが安心できる形。タオルケットの端っこを咥えているみたい。

「私、免許持ってません。車の運転はできないと思います」事務所のスタッフ、向日が手を挙げて内情を打ち明けた。

「共犯者がいた場合はどうでしょうか?」

「これはなんなんです!?いい加減にしてくれませんかね、私たち本来なら飛行機で東京に戻る時間なんですよ、最終便も今なら急げば間に合うかもわかりません。これでも忙しい身なのです、のらりくらり、それが警察のやり方なら結構。ですが、こちらの事情を踏まえてくれなければ、お答えする義務が生じていない以上私たち、特に演奏していたアイラさんやステージ袖に張り付いていたカワニさんは解放して当然では?」向日が立ち上がって言い放つ。首が細くバレリーナのそれに近い、言動よりも姿勢にアイラは注目をした。思ったほどおとなしい印象ではなく、日常においては反対に血気盛んな性質を仕事上の立場で押さえつけるのか……。