コンテナガレージ

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仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

黄色は酸味、橙ときに甘味 1

 ミラーを見ながらカワニが問いかけた。ここまで黙りっぱなしの私になにか話しかけるきっかけが欲しかったらしい。無言の車内を彼は嫌う、というよりも堪えられないのだろう。待機状態の違いがもたらす、定常の据わりが彼にとって討論に寄った着地の見えない、いつでも降りられるとりとめのない会話なのだ。

「そうですね」アイラは返答の合間。いや紙面を読み進める、かすかな間に相槌を返す。

 テレビ欄の裏のページを開く。見開きの両ページは議員への不透明な資金提供とその使用用途に関する免責を含めた追求についてだ。

 次。このページに目的の資料が見つかった。左半ページの上部(下部の広告を除いた)に目を通す。

『十月三日の未明に見つかった刺殺体は田端ミキ、二十二歳と判明した。彼女は地元のK大学に通う四年生で、事件当日は午前中の講義を最後に消息を絶っていた。交友関係は希薄で、大学内の友人は少なかったという証言が多数得られた(彼女が所属するゼミの学生より)。歌手アイラ・クズミのライブが行われた、死体発見の現場である阿倍記念館とK大学を結ぶ距離は車で約二時間を要する。よって、講義に出たあと、彼女は直接その足で会場に向ったと思われる。警察の発表によれば、タクシー等の車両から目撃証言は得られていない。また、刺殺体の第一発見者、阿部記念館の管理人は次のように応えていた。犯人と思しき不審な人物を見かけたが、その場で捕らえることはせず、通報のために死体が横たわるホールを離れた。ただ、玄関に通じる経路はドアの隙間から見張っていた。見落としてはない、とのことである。ホール内は唯一、右手奥の両開きの窓が設置されるものの、管理人曰く、窓は閉まっていた。そのうえ、フランス窓は一般的なドアとは構造が異なり、屋外から鍵をかけることは不可能であった。警察は、犯人らしき人物は何かしらの方法を駆使して、ホール内から逃走を図ったものみている。なお、アイラ・クズミに対する嫌がらせの可能性も視野に、警察は彼女の九州ツアーに警戒を強めるよう所属事務所への勧告を促した模様である。