コンテナガレージ

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黄色は酸味、橙ときに甘味 1

「なるほど、無視ですか、ひさしぶりの感触では、あるか、うん」

 カワニの呟きを取り入れつつも応えるつもりはなかった。

 スポーツ誌を捲ってアイラは目的の記事を探す。

 写真が掲載されていた、記念館の表口である。アングルは入り口を真横側面から映したと想像、ホールの脱出経路である窓と玄関の二つを映したかった撮影者の意図を、アイラは汲み取った。

 スポーツ誌から得られた情報は全国紙の情報を比較的薄めた広域性の高い読み物として、紙面の字数を引き伸ばすようだった。もっといえば、見出しを拡大したおかげで対照的に紙面を埋めた先ほどの新聞社の記事、その苦労の跡はありありと彼女には伝わった。

 取り扱わない。これは他紙に遅れを取る。出遅れは明日の購読数の減少、売り上げの低下、ひいては興味を失い、離れる読者へ経路が約束されたみたいに情報提供者の彼らは時代遅れの感覚に取り付かれてる。ありのままの出来事を包み隠さず伝える報道の本心は、過去の姿らしい。定期的に購読するに至らないのは自明のことだ。

 アイラは、そっと新聞を置いた。

 カワニのミラー越しの視線に織り込む期待がひしひしと伝わりつつも、返答は拒んだ。

 私はペンシスト。何度、訴えただろう。人は理解を嫌う生き物。そうしては何度、自らに言い聞かせたか。

 説き伏せるでもなくそのほかの可能性のひとつである反論なんてものは、労力の有効的な使い方に昇格しないことを、彼らから、私に関わる九割九分の人物たちから学べたのだった。

 ゴッツ。背後で音が鳴った。

 肩を引き、首をねじった。アキがしたか窓に頭をぶつけて、痛みをさすって抑えていた。路肩に停車する車両をかわす急ハンドル、遠心力の影響である。