コンテナガレージ

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黄色は酸味、橙ときに甘味 3

 散々。

 東南アジアの仏閣を思わせる石造りの建物にもう一つ、南米の遺跡に立つ神殿と開けた土地に生える一面の短い草が印象的。カワニの行動力は底が知れない、管理側の県か市が提案を持ちかけたのかも。歴史的な建造物であることは、侵入を拒んだ敷地を隔てる厳重な鎖と錠前を見てひしひしと身に感じた。

 五十年ほど前を境に利用から保存に建物の価値は、残される、後世に伝える建物としては死を意味する機能に切り替わった、とたくさんのシミを携えた男性が話す。かつてここで働いた人物らしい、史実の研究家を名乗る人物も何人か、施設内の見学に市役所の担当者が引き連れてアイラと顔合わせ。彼らは本来の目的である、建物内部の造りに目を凝らすのに必死、挨拶を早々に切り上げてくれた振る舞いは賞賛に値する。ただし、彼女はレーベル契約の規定について、特殊な場合を除き、現場への写真の撮影及び撮影機の持込を禁じていた。だが、約束は破られるためにある。

 指摘を二度、アイラは、研究家を名乗る人物にフラッシュの閃光が引き終わらない間に憤りをぶつけた、当人には届かない、屋外二階のテラスを支える一階外に気分を害するほどの光の強烈な具合。二度目の叫びは当然、一度目を凌駕した。私の演奏は止まる、それまでは歌声と弦の響きに低音では大型のファンが廻る暖房のスクリューがセッション、まるで、たとえるなら、無言で隙間を一定の彼なりのすべからく単純でしかし正対する同面を、最適なリズムで歌うように問いかけてくれていたのに……。暖房の音を根元に据えた、開演だとしたら、会場の雰囲気に変化は見られるだろうか、とアイラは空間を思い描く。私の演奏は雑音と歩調を合わせて歌っているのだから、リハーサルではない、何の気なしに歌っている、と訪問者は高をくくって室内を出たのだろう。

 アイラは屋外で忠告した。

「申し訳ありません、警告を無視した、あなたの落ち度です、どうかお引取りを」アイラはつかつかと該当者に詰め寄る、カワニが遅れて走り寄った。