コンテナガレージ

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黄色は酸味、橙ときに甘味 3

 不本意な眼差しでカラドが見せるディスプレイにはアイラの演奏風景画が十枚以上確認できた。念のため、すべてのメモリーカードをカワニと市役所の担当者が調べた、各自の端末に差込み、確認。ここで十分の時間を無駄に垂れ流す、そう自覚したアイラだった。

 結局、産業会館の数倍の、アイラが収められていた。契約の重さを身に置き換えたほかの訪問者も都合よく用事を思い出して退散、カラドが帰った三十分後に最後の一人が館内を離れた。

 こうして通常の音を奏でる環境にアイラたちは、立ち返った。

 がらんと、ひび割れた床にカワニ、アイラ、舞台の設置スタッフ代表の三名が顔をつき合わす。舞台の設置スタッフは目深にかぶった帽子が表情を隠し、口周りの髭とその帽子が当人である判断材料。指示を与える者に稀な、口数の少ない人柄だ。寡黙といえるか、男性ならではの表現。女性には強さを感じるなら凛然、受身なら静謐が適当か。

 観客席を温めるストーブの位置にカワニが頭を悩ませる。座席の配置は自由である。観客が入ればいいのだ。アイラは四つのブロックに客席を分けた提案を伝える。

 彼女の意向に沿って、中心にストーブが置かれた。形成過程、会場が整っていく。室内空間の前後(ステージを前、その対面を後ろ)は大型の送風機が暖気を送ってくれる。更に、足元の対策として、電気カーペットを席一面に敷く。足元の冷えは集中力を断ち切ってしまう、演奏がまともであっても聞く側の環境が万全でなくては。ただしあくまで非現実的な状況と場面であってほしい。建物にマッチするカーペットの柄は方々を駆けずり回った末にかき集めた。会場設営に無関係のスタッフたちも借り出されたので、会場は一時アイラとステージ演出とスタイリストのアキの三名という言葉数の少ない人物がそろって、しかし送風機が間を隙間なく埋めていた。

 大量の巻物が届いた時刻は余計な観覧客が姿を消した一時間後のこと。電源の確保やら配線の見栄えも考えて、音響スタッフは躓きを防ぐために平たい配線を選択したらしい、電気カーペットの凹凸は見られなかった。アイラはステージに椅子を上げて観客の反応に目を凝らす、もちろん瞼は閉じる。