コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

黄色は酸味、橙ときに甘味 3 

「お取り込み中のところ、おほん、申し訳ない」

「過度な礼節は必要ありません、どうか気遣いの文字数を質問に変えてくださるとありがたい」ステージの手前でぴたり止まる、刑事の不破は足をかけるのを躊躇った。好意的に受け入れてもらえる彼自身の予測を、私が裏切った。いつも同様の態度を取るなどと約束を交わした覚えはありはしないのだ。よく覚えていておいて欲しい、それだけは。

「いやあ、これは手厳しい。報告が一件あります、面倒で邪魔ではありますけれど……」彼は眉間を寄せた。顎を引く。「宮崎の会場で三体目の死体が発見されました。今日の朝、正確には午前六時前後、近所の老人が日課のウォーキングの際に見つけた。刺殺体です。凶器は特殊でした、持ち手が付いた矛のようなものでした。平たい刃は九十度に曲がり、さらに元に戻って、柄と平行を成す。ただ、矛とはいえ、全長は五十センチ弱、刃先の部分を覆い隠せば、持ち運ぶ姿は農機具や杖のような使い方が可能だろうと思われる」

「手紙の所在は?」アイラは不本意ながら尋ねてあげた。彼が言い出さないのは、アイラに言わせるためである、つまりこちらが痺れを切らすまで話を長引かせようという彼の魂胆は見抜かれる前提による。呆れた、アイラは右後方のテーブルに手を伸ばす、水を飲みつつ、視線を彼に戻した。

「和紙のような大振りの繊維が目立つ、緑色の手紙がズボンのポケットで見つかりました。採取された指紋は、まあ、手紙を折りたたみ、持ち運んだ程度の数です。被害者の指紋のみの検出、その他分析結果では被害者以外のDNAは未検出、場所を特定する植物、それから鉱物などの粒子も同様です」

「表情から察するに、手紙が書かれた場所が特定されたとして、その先の犯人を追う手がかりには欠ける」

「すべてお見通しですか」不破は笑った、初めての笑みだ。これまでの笑いはすべて作り物である、というのがアイラの認識だ。カワニがこちらの様子を首を伸ばして窺い、彼は熱風が吹き込む客席に座り、室温に身をおく。 

「いえ、あなたの下の名前も、もう一方の刑事の名前も私は知らない。理解に及んだに過ぎない、それは特別な能力を付与されたともいいません、あなたが見過ごしてる、ただそれだけのこと。もちろん、捜査の怠慢に冷や水を浴びせているのでもまったくありません。気付かない、だからあなたは刑事を全うしていられる。世界は普通の人たちの似通った毎日によって形作られ、明日を模るのだ、という言い方は避ける」