コンテナガレージ

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黄色は酸味、橙ときに甘味 4

 金曜の帰還、産業会館を出てすぐの道路脇に停止車両を、一台確認した。運転席に一人、後部座席と助手席は暗がりで見えなかった。アイラたちは明日に備えてホテルに戻る、運転はカワニ。彼はこっそりあくびをかみ殺した。スタイリストのアキにそれは伝播、二人の疲労の蓄積が窺えた。ライブ後数日は彼らのためにひっそりと暮らそう、彼女は密かに思う。効率の重視、パフォーマンスを求めたときにこちらに提供してもらうための配慮である。

 ホテル。ベッドに寝そべる、セットリストを洗う、四日前と同じホテルだった。ダブルベッドは不要だといったのに、カワニはいつも部屋の圧迫感を気にかける、こちらの意見に耳を傾けようとはしない、マネージャーとしての責務だろうか、不要な精神面の取り計らい。

 土曜日は晴れ。時折、霰。

 いつものように、眠り、いつものように目覚ましが起こす前にベッドを這い出る。そして、これはいつもとは違って、地下に降りる階段を下りた先を右に左に通路を曲がって入るレストランで朝食を摂った。新聞を折りたたんだ窓際のカワニが立ち上がる、テーブルと接触、他のお客の注目を集める彼は、そのまま私を呼んだのでは正体がばれてしまうと判断したのか、さっと何事もなく席に着いた。喧騒が引いた。屋外の景色、中庭だろうか、剪定され縄で縛られる植木、低い木々が見えた。高台にこの建物が建つのか、もしくはホテルの背後が斜面か、彼女は薄ぼんやり覚醒前の頭を動かす。

 セルフサービス式の朝食だった。温かいスープコンソメの香り、焼きたての楕円のパンに、サラダ、それから玉子焼き、スクランブルエッグ、ハムにソーセージ、コーヒーなどなど。パンは乾燥を防ぐためのだろうか、真四角の透明な取っ手の付いた容器に入る。スライスされた中央の数切れが消失していた。食パンはまた別の容器に収まる、こちらも一斤丸まるがスライスされている。やはり真ん中がなくなる、人気らしい。柔らさが好まれる、とろける、舌触りの良さ、滑らかさが世間の求める流行なのだろうか、アイラの触覚は元気なく前に垂れたままだ。

 コーヒーと、ハムエッグにソーセージを一本よそって、カワニの向かいに座った、午前七時である。

 朝の挨拶を交わした彼は、視線を手元に途中だった新聞記事に目を通す。私に声を掛ける機会を伺うが、彼は気を利かせて、対面に座ったことで満足をしたらしい。ある程度私の思いを汲み取ってくれた、ということか。