コンテナガレージ

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黄色は酸味、橙ときに甘味 7

「そうですか」

「気にかかる点でも?手矛なら、近隣の鍛冶屋から盗まれた作品でして、奈良時代に作られた現物のレプリカが一週間ほど前に作業場から姿を消した。刀剣類という括りですが、製作者は商品として売り出すつもりはなかったようでして、県に届け出るかどうか迷っていたらしい。鍛冶屋の、管理能力の責任を問われる心配は取り越し苦労に終わる、とは思います」歯切れが悪い。不破は、言葉を切って軽く首をかしげた。「セキュリティ会社の管理を受けていたにも関わらず……盗みに入った。ほかの作品、より殺傷能力の高い日本刀が選ばなかったことも気になります。どう思われますか?」

「使われた凶器に、興味はありません。背中を刺した、あるいは背中を刺してもらったという殺害と自殺の見方を考えていました」

「希望、ということですか、殺害を願い出たと?」高い声を不破が発する。

「さあ、そこまでは。自殺を含む殺害の意思というのは計測が不可能です。警察が推し量って捜査を進める指標はそういった雲を掴むみたいな心理を追い求める、当ては外れます、絶対に」

「不思議と、あなたに断言されたら真実に聞こえてしまう。声がいいからでしょうかね」不破はからからと笑った。乾いた声だ。諦め、の文字が横切る。

「捜索願はいつ届けられたのでしょうか?」茶室に続く暗がりの小径を歩くように、アイラはきいた。

「ライブの翌日の夕方です。彼女の両親が通報したそうです。夫は飲みに出かけ、翌日はホテルから直接仕事場に出勤、携帯は会社から支給された端末をメインに使っていたらしく、個人の端末は鞄に入れっぱなし、事態は両親が直接家を訪れて判明した、とのことです。知り合いからの情報ですので、あまり詳しい事は聞かされていなくて」