コンテナガレージ

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黄色は酸味、橙ときに甘味 7

 機材用の運搬車が発進、タイヤが地面を掴む、上空では低音をばら撒くヘリがバラパラ飛び去る。

「あのう、アイラさん、私の煙草も灰が……」

「……どうぞ」緩慢な動作で灰皿を開ける。

「事件をどう見ます?」彼はきいた。まだ、問いかけが続いていたらしい、彼の目的は、そうか、事件だ、思い出した。現実に立ち返った直後は、いつもこうして周囲の偏差に追われる。相手が一人で助かる。把握が楽であった、比較的処理が容易くて済む。

「さあ、なんともいえません。まあ、しいて言うなら……」

「言うなら?」不破の鸚鵡返し。先を急いでる、時間が迫っているようだ。

「やめましょう。憶測の域を出ない考えを発表するのは理に反する。いかがわしさを誘発しかねない。私は一応発信者ですから」

 不破は追い討ちをかけなかった、カワニがフロントガラスを通り過ぎて、引き返す、さらにもう一度通過した。今後も私に接触する機会を見据えた不破が引き下がったのは妥当な判断だろう。カワニの怒りは私への接触を閉ざす、アイラのツアー会場が死体の発見場所という共通点のみでの拘束と見解を求める権限は非常に弱い強制力だ。それゆえ、頻繁に何度も接触を行える可能性を、不破は残したいのだろう。

 彼が去って二本目の煙草を吸い始める。カワニが五分で出発する旨を伝えて運転席で一件電話をかけた、二分後にアキが乗り込んだ。彼女は煙草を吸わないので、すぐに消した。エンジンをカワニがかけて、エアコンと車内の空気清浄機が同時働いた。

 ――同時。

 アイラは窓を閉めた。会場を見つめる。見張りをかいくぐり犯行場所を会場に選択した意味とはなんだろうか。会場に居座った場合は……、無駄か、私は東京に帰るのだ、いずれは。

 カワニがギアを入れ替えた。出発、敷地内に機材車がまだ一台残っていた、最後の見回りと点検要員。

 敷地を出る。

 車道では観客がまだ数十人に塊でたむろしていた。