コンテナガレージ

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赤が染色、変色 1

 

「だ、大丈夫ですか?」カワニだ。

「被害は今のところ受けてません。かなりの人数に囲まれて」アイラは務めて落ち着き払った態度で首を伸ばす、前後と右側の状況を探って応えた。「五十人はいますかね、ホテルの宿泊客がほぼ私のライブに訪れたお客だったと思われます」

「非常時に何を悠長なことを言ってるんです!いち早く、その場を離れてください、キーは持ってますね、ゆっくりと人を轢かない速度で発進、車を動かしてください、アキさんに頼んで、決してアイラさんが動かしてはダメですよ、いいですか、これは絶対にです」

「運転席に刑事さんが座ってます。頼んでみましょう。行き先はそうですね、どうせなら、駅まで送っていただきます」

「この時間に警察がぁ?」音が割れる

「昨日の会場で死体が見つかったのです」

「はあ!?またですか、もう勘弁して欲しいなあ、そういうの」

「それでは、またのちほど」

「アイラさんっ!」カワニが言う。「やはり私も同行します」

「それは昨日結論が出たはずです。人ごみを通る、ホームの際には立たない、襲われるのは背中であれば、ギターを背負うので背中は覆われる、狙う箇所は正面しかない。胸と腹部を衣装のバッグを抱えますので、心配には及びません。では、会場で」アイラは通話を終える。「刑事さん、そのまま車を動かして、駅まで走ってください」

「ええっと、それは許される行為でしょうかね、後々厳しい処罰を受けるっていうのは、勘弁して欲しいなぁ」

「問題ありません、マネージャーの許可は取りました。送り届けたら、ホテルに戻って」

「なんだか、突拍子もない事態に巻き込まれた……刑事になってはじめてかもしれない」

 人を掻き分けた車はのっそり地を這うようにタイヤが転がる、掻き分ける人ごみ、沿道でカメラに映るマラソンランナーを追いかける目立ちたがり屋が数人着いてきたが、追いついた赤信号はもてあそぶように青に変わり、小さく姿がそのうち消えた。ちらつく雪が郷愁を誘うか……、豪雪ともなれば余裕は消えうせる。安定した現在、風を遮断する車内に座るからこその感想なのさ。