コンテナガレージ

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赤が染色、変色 3

 ギターを職人に差し出す。冬季も黒い髑髏がプリントされたTシャツ、長髪のスタッフに手渡した。彼が弦の調節を行ってくれる。ステージ裏に風のように姿を現すエンジニアは、音響設備は施設に備え付けの機械を一部使用するとのこと、ギターを含む音声に関しての調節は細かな調節が必要となる。が、現時点では、機械の癖を引き出すことに注力し、翌日に再度、調節を求める。簡潔に、それだけを言って、エンジニアは肩を回して持ち場に帰った。

 壇上を降りる、腰よりも若干低い階段半ばを落ちるように飛び降りた。

 ステージを降りて、カワニを見つめる。聞きそびれた回答を彼女は求めた。

「……この後の予定はですね、そうですね、とくには予定していませんので、このまま……」言い切る前に彼の横を通り過ぎる。カワニの真後ろから三メートルほどの距離にスタイリストのアキがレールにかけた衣装の三着の傍らに立つ、折りたたみ式のハンガースタンド、会場に常に衣装を吊しておきたい、服の皺を嫌う、とアキの心境が不意に引き出された。

「真ん中の、ストライプの白の上着と、下はそれは吊りズボンですか?」立ち止まる。アキの潤んだ瞳は斜めにこちらを窺う、彼女はアイラよりも十センチほど低い。

「ここには似合いませんよね、……除外してください。その、通常のライブハウスとは違う独特の場所が会場になると聞かされたので、場内の明るさは上着の白と反発しかねない。私のミスです」私を着飾るスタイリストでさえ会場は初見であるのか、つくづくデータ収集に最適な環境と感じ入る。

「あえて着ます」瞼をゆっくり引き上げる、アイラは言った。「途中で汗をかいた場合、いつでも上着のシャツが脱げるようにしたい、その下に黒か紺のTシャツを、袖はたぶん邪魔になって捲りますから、長袖は必要ないでしょう。靴は?」

「スニーカーと低いヒールのパンプス、それとブーツを用意してます」アキは襷にかけるくすんだ緑色のバッグを探り、てきぱきと箱を取り出す。屈んで、片膝をつく、箱の上に靴を並べた。

「あなたの判断は?」アイラはきいた。用意されたみたいに回答は打ち返される。