コンテナガレージ

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赤が染色、変色 4

 インターフォンを取る、回覧板だ、無駄話が長引かないように、カレーの匂いを振りまいて、火をかけっぱなしにしておく、おっちょこちょいを演じるのよ、面と向って挑みかかるのは割りに合わない、三葉はミルクパンを台所下から取り出し、木べらでほんの少し、たまねぎを掬い取る、そちらを弱火にかけて、玄関に走った。本体のフライパンは火を消していた。

「こんばんわ。回覧板ですう」隣に住む伊達さんだ、好き嫌いのちょうど中間地点の人物、顔見知りであり、会話を交わす仲ではあるけれど、それは互いの狭い一軒家を守るため。

「あっ、どうも、だいぶ寒くなってますね」玄関先の温度が下がっていた。

「そうなのよ、もううちではストーブ焚いちゃった」

「この辺は特に寒暖差が激しいですものね」

「あらなに、今日はカレー?」玄関先に座り込む伊達はイヌのように鼻を突き出す。エプロンに赤いナイロン製のジャンパーを羽織る、アウトドアに出かけそうな佇まい、足元は長靴、雨の気配は感じていなかったので、彼女は庭仕事をしていたんだろう。たまに、庭からこちらの庭を覗きこむ様子に出くわしていた。

「ええ、そうなんです。市販のルーを使わずに、スパイスから作ってみようと思いきったんですよ」

「凝ってるわね、私なんかさ、それこそ気合を入れて作ったら作ったで、夕食に白米と味噌汁が出てこないのはどういう神経してんだって、もう旦那ったら機嫌が悪いのなのって、子供だって、そうよ、友達の家では、ハンバーグはナイフとフォークで食べるんだあって、家でも同じくしてよって、はああ、私のことなんで誰も気にかけていないのよね」

「……わあっと、まずい!」

「なにぃ、急に叫んで?」