コンテナガレージ

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赤が染色、変色

 私も一緒に彼女と同じ空間に一生息が詰まるそのときまで、死を迎えられたらな。たぶんおかしいけれど、本望よ。

 鶏肉を炒める。豚でもなく牛でもなく、細切れでもない、鶏モモを一口大より大きめにカットして焼き色がついたころあいを見計らい、野菜たちの鍋に移しかえた。水を数センチ、ほんのわずか注ぐ、野菜の水分を期待するので、十分なのだ。

 ご飯を炊飯器にセット、サラダ用の野菜を水洗いして、放置。あの人が帰宅したら、味付け。

 キッチン対面の、カントリー調の食器棚に立てかけた木製のスツールに腰を掛けて、エプロンのポケット、ひらひらのフリルがついた薄いピンクを探り、分厚い手紙を取り出して三葉は読みふけった。

 ふーん、ふむふむふむっと、感心関心、そんな見方もあるのか、彼女は頬を膨らませる。人前で控えた仕草、夫にさえ見せていない、私だけの無防備な癖。子供には許されて大人にはという境目が私にはどうにも納得できない、だからやめようとは思わなかった。

 腰を浮かせる、鍋の様子をちらりと窺った。ふむふむ、なかなかどうして様になっているじゃないの、我ながら初めてにしては上出来の部類、油断は禁物、はいはい、わかっていますとも。

 端末が固定電話の横でバイブレート。

 焦せらず、急がずにっと。緊急時の冷静さは過酷な状況下で真価を発揮する、かなり昔に言い聞かされた言葉を思い出した。登山が趣味の父親の明言。「迷」の字が適してるかもね。

 メールである、画面には娘の名前。

「明日、アイラのライブに行くつもりってわけじゃあないでしょう?ほんっと、ほどほどにしてよね、母親だっていう自覚少しは持ってよ。あと、来週パパの誕生日だから、去年みたいに忘れないで、しっかり今のうちにプレゼントを買っておくこと。私は今日送ったから月曜日の指定配達にしたから、バレないようしっかり受け取って。それから、お正月はたぶん帰れると思う、十二月の中旬から休み入るけど、卒業旅行の打ち合わせ先の検討で迷ってんの、年末に早く帰ることはないかもしんない、たぶんぎりぎり大晦日にはそっちにいられると思う。また、メールすると思うけどさ、おせちの数の子と伊達巻きとおもちと海苔は絶対に用意しておいて、忘れたらダメだから。ほいじゃあ、また、連絡する」