コンテナガレージ

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赤が染色、変色 6

 一人身だったら、いつもアイラに会いに行けるのに……。それは違うか、違うよね、三葉は千切れるほど首を振った。

 車内に戻る。

 フロントガラスに流れる一筋、二筋。水の玉が集まり一つへ、重く大きく形を変えて、下へ消える。

 私は幸せなのか、不意をついて疑問が襲う。

 誰と比べているの?対象を明確にして欲しい、観測はそれからにしてよ、不用意な塞がりは禁物。

 だめね、私は前の書き手みたいにアイラに寄り添ってしまいそうだった、いけない、いけない、アイラは、あの人は、接触や一体感の求めと正反対の人種。

 すべては彼女が、物事の起こりは彼女が世に認められた時点を境に、見事世界を塗り替えたんだわ。

 落ちてくる水の粒がこれまでの粒たちを一掃する、持ち運んで、あるべき場所へと連れ去る、一人では、その大きさでは現状に居座るのがやっと、彼女は、アイラは手を貸したの、けれどそれすらほとんどの人は感知していないの、虚しい、私が公言してもいいんだけれど……これは、彼女の意思に反する。

 私の、この年の半世紀を経過した肉体、衰えを体感するだけの、食べつくした情報の果ての体に精神からの侵入をアイラは、セルロイドのような手を差し伸べて、呼び入れた、笑ってなどいなかった、理由を聞かなかったし、声は歌声のみ、一時、声を聞いたことがあった。満員電車の中で彼女を探し当てたの、娘には内緒で、夫にも内緒で、教え子は夏休みで、捻出した一週間の最終日に彼女を朝の通勤ラッシュでいいえ、最初に視界に入れたギターを目印に彼女だって確証を抱いた。おかしくて笑いが止まらなかったわ、だって彼女の周りを乗客が取り囲んでいるみたいでね。しかし、あっという間に周りの奴らはボディーガードに見えてきて、ああ、移動だけでも大変なんだって、隆起した立場が仇となった、そう思った。電車を降りて、後を追った、ビルに入っていった。途中、コーヒーを買っていた。音楽家はコーヒーを好むって神話の裏が取れたのは収穫。建物内部へ侵入は留まった、自制心は持ち合わせてる、好意を理由に行動を起こすそれ自体が通常の逸脱だわ、理解はしているの、かろうじてね。