コンテナガレージ

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赤が染色、変色 11

 人垣が割れる。演奏は止めざるを得なかった。旋律が戦慄に姿を変えてしまった、手に負えない、それは規定に反する。一過性、一度きりが価値を生み出し、人は対価を支払う。

 正面やや左の一角に空間が形成される、観客は数人倒れてる、悲鳴は途切れて、ざわめきと細かな悲鳴が鳥のさえずりのように観客席の各所で聞き取れた。

 白のワイシャツ姿の刑事が二人見えた、大慌てのスタッフたちが観客席に策を乗り越え、飛び込む。

 映像は異様に通常の流れる速度を下回っていた。ほんのわずかの遅れ、この場面の切り取り、把握が命に関わるのだろう、脳の緊急的な信号である。

 不測の事態に慣れた動きと推察される、ステージ上はよく状況が見て取れる。

「アイラさん、奥に下がりましょう」カワニがステージ袖から壇上に控えていた。彼の背後、ステージ裏ではモニターと目視を交互にスタッフが慌てふためく。究極の事態に陥るとモニターに映る映像は信じられないらしい、自らの視覚が結ぶ像と配色に行き着くのか、また一つ人の不思議を垣間見た。袖に降りる。客席を映し出す映像に見入る、客席監視用にカメラ映像である。刻一刻と移り変わる現場の対処用のカメラだ。電源供給のコードが端末の薄い側面から飛び出るタブレット端末を、やや顎を引く角度で状況を確かめる。端末は椅子の背に立てかけてあり、ティッシュの箱が傾きを支える。

「持ち物検査は通常通りに行っていましたね?」アイラはきいた。誰もこちらをみてはいない。

「それはもう、事件の余波もあって、鞄はもちろん、コートのポケットも厳重に調べるように指示してました……、まずいことになった、血だ、ああ、何をすればいいんだ?ま、ずは、お客の退避と警察への連絡と、それから、それから……」額を押さえてカワニがふらつく。

「決め付けるのはまだ早いですよ」彼女はステージに戻った。

 スタッフが柵を開けた、軽々と踏み切った両足を柵の外に投げ出し、体が宙に浮く。スタントマンを髣髴とさせる身のこなし、真ん中で分けた髪がさらりと頭部を追いかけた。

 刑事たちに両脇を抑えられる、人垣を出てきた女性。表情は髪に隠れる、うなだれてるようだった。

 不破と視線が交錯した。首を軽く挨拶程度、彼はかしげた。どのような意味だろう、顔を出せ、ということかも。知り合いかどうかの確認を求めるのか、だが私には突発的な出来事にこそ真価を問われる、招集した面々へ期待、あるいは裏切りを提供する義務が残されたのだ、要求には従えない。