コンテナガレージ

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赤が染色、変色 11

 演奏を止めた観客が引き起こした活動の説明はあえて、伝えずに継続を保つ。

 見回す観客の両目に一セットずつ、同意を取った。

 その間に、女性は席に座り、ペットボトルの水を与えられる。青ざめた頬の血色が少しだけ戻っていた。

 時計をちらり、限られた時間と曲の分数と相談する。うん、いける。

 断ち切った時間を今一度盛り上げるつもり。 

 波に乗せる、機速が乗ったら、未来永劫続くかのような錯覚を植え付る。

 しかし、現実へと急速に立ち返り、それでもなお足元は偉大だと投げかけて、未来を提示、持ち掛け、あわよくばそちらへ目を向けてもらい、今日と昔と明日のどれかを抱えつつ、終幕。

 再開、歌い始めの音は聞こえない程度を意識した、聞き漏らしていた喫茶店の有線に似せた。

 一人一人の顔を手がかりに、体全体を、周囲の気分を、これまでの彼らを取り扱う。次曲。

 合図の曲を奏でた、これからエンディングへ向う。

 各々に真実がある、伝わっただろうか、異なる私を演奏したこれまでとあと残りの二公演にて成果は得られるのだろうか。

 とうとう、エンディング曲。演奏の前に、ひたとアイラは手を止める。止まっていたが、意識的にさらに硬直を選んだ。

 ……催促の拍手が起こる。適度なリズムだ、しゃんしゃんと、サンタでも登場するかのように急がせるでもなく、歓迎とも言えない、早くもなく遅くもない、ただし私の背中をやんわりと押す。

 口を開く、ギターはいらない、手拍子がお手製のはじめから所有する彼らの楽器。

 声が自然に、つつましく強硬な震えが、口をついた。

 聞こえた、もちろん聞こえた。

 だから、聞こえてる?

 ねえ、聞こえたかしら。

 私は囁いて、呟いた。